福寿草になった少女


福寿草になった少女5


その人のおかげで、福はひもじい思いをするこ
となく、丈夫に育ちました。
大人ばかりの静かなやしきが、とてもにぎやか
になりました。
笑い声のたえない、明るい家になったのです。
「ほら、みて。福が笑っているわ。かわいい笑
顔ね」
「福がね、はいはいできるようになったわ」
「福が歩けるようになったの」
二人は、福の成長を、何よりも楽しみにしてい
ます。



福は、笑顔のすてきなこどもでした。
姿がかわいいだけでなく、誰からも愛される心
のやさしいこどもだったのです。
「とうちゃん、かたをたたいてあげる。そこへ
すわって」
福は、長者のかたを、とんとんとたたいてくれ
ます。
「きもちが良いのぅ。福、ありがとよ」
長者はうれしそうです。



かあちゃん、なにかお手伝いすることない?」
福は、家の手伝いもよくやりました。
「福ちゃん、あそぼ」
近所のこどもたちも、おおぜい遊びにきます。
やしきの広い庭は、いつも近所のこどもたちでい
っぱいでした。
福は、大勢の人に「福ちゃん、福ちゃん」とかわ
いがられ、大きくなりました。



福が七才になった春のことです。
「福や、守屋山にはな、雪がとける頃、黄金色の
花が咲くといういいつたえがあるのだよ。
黄金色の花は春をつげる花だといわれている。
黄金色の花をみた人は、一生幸せにくらせるそうだ。
とうちゃんも若い時、黄金色の花がみたくて、毎年
守屋山に登って花をさがしたものだ。
しかし、一本も見つけることができなかった。
村の人は、だれも黄金色の花をみたことがないそう
だ。一度で良いから、黄金色の花をみたいものじゃ
のう」
長者は、守屋山に咲くという黄金色の花のことを、
福に話してくれました。


                   つづく



童話「福寿草になった少女」は、みほようこの二
冊目の童話集・「竜神になった三郎」に収録され
ています。



竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

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