火とぼし山


    火とぼし山13


「次郎さん。会いたかったわ」
「きよちゃん。今夜はずいぶん早かっ
たね」
「私、湖の氷の上を歩いてきたの」
「えっ、氷の上を?」
次郎が驚いて聞きました。



「一分でも早く、次郎さんに会いたか
ったから」
「きよちゃん。湖の氷は、まだ薄い。
氷が割れたら、どうするの。こんな寒
い夜、湖に落ちたら死んでしまうよ。
きよちゃん。たのむから、危険なこと
はしないでね」
次郎は、きよのことが心配でした。



次郎と会うために、きよは時々むちゃ
なことをしていたからです。
「次郎さん。はい、お酒」
「お酒?」
「寒いから、次郎さんに飲んでもらお
うと思って持ってきたの」
きよは、小さなとっくりをさしだしま
した。


           つづく



信州の諏訪湖には、「火とぼし山」と
いう悲しい伝説があります。

「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。