火とぼし山


    火とぼし山42


「何の音だろう」
手長と足長は、あわてて岸にあがりま
した。
月あかりに照らされてみえたもの、そ
れは湖を泳いでいる娘の姿でした。
娘は頭に荷物をのせ、一心に泳いでい
ます。



「どこの娘じゃろ」
そっと近づいてみると、明神さまから
話を聞いていたきよでした。
「誰かと思ったら、きよか。
湖に氷がはれば、氷の上を歩く。
水がぬるめば、湖を泳いで渡る。
むてっぽうな娘じゃのう。



男だって、湖を泳いで渡る人は、数え
るほどしかいないだろう。
かよわいおなごが、こんな夜中に湖を
泳いで渡るなんて、わしには信じられん」
足長が、あきれたようにいいました。


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪湖
には、「火とぼし山」という悲しい伝
説があります。


「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。