火とぼし山


    火とぼし山49


「きよちゃんは、いつもそんなふうに
祈っているの」
「祈っているわ。次郎さんのことも、
元気でくらせますようにって、毎日祈
っている」



きよのそのことばを聞き、暗い夜道を
何時間もかけて訪ねてくるきよちゃん
の無事を、おらは一度でも祈ったこと
があっただろうかと、次郎は反省しま
した。



「私ね、湖を泳いでいると、魚になっ
ちゃったのかなって、思う時があるわ」
「魚になる?」
「湖を泳いでいると、魚になったよう
な気がするの。



そんな時は、すーいすーいと早く泳げ
るの。誰かが・・・たぶん神様でしょ
うね、私を守ってくれているのだなっ
て思うわ」


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪湖
には、「火とぼし山」という悲しい伝
説があります。


「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。