鹿になった観音さま


   鹿になった観音さま9


「三郎さ。これは、観音さまでは
ないか。どうしたのじゃ」
「はい、和尚さま。裏山へ行った
ら、大きな黄金色の鹿が、突然わ
しにおそいかかってきました」
「何? 黄金色の鹿だと。この世
に、そんな鹿がいるのか」



「いません。多分いないと思います。
わしも、初めてみました。
その鹿は、美しい黄金色の鹿でした。
しかも、びっくりするような大きな鹿。
その鹿が、突然わしにおそいかかっ
てきたのです。
わしは、その鹿を、弓でいとめました」



「三郎さ、そのいとめた鹿は、どう
したのじゃ」
「和尚さま。その鹿は・・・」
「どうした。三郎さ」
「目の前から、姿が消えてしまった
のです」


            つづく



「鹿になった観音さま」は、信州の
伊那谷・「三穂」に伝わっている話
をヒントにして、みほようこが書い
たもの。