鹿になった観音さま


   鹿になった観音さま16


「三郎さ。鹿狩りにはいかないの
かい」
「はい、和尚さま。あれいらい、
わしは鹿狩をやめました。弓をひ
くこともしません」
「そうか」



「和尚さま。今日は話があってや
ってきました」
「三郎さ、話ってなんじゃ」
「和尚さま。わしが持っている田
畑や山林を全部寺に寄進したいの
ですが」
「何、全財産を寄進してくれると」



「はい、今まで殺生をしてきたつぐ
ないとして、全財産を寄進したいと
思います」
「そうか。三郎さ、ありがたくいた
だくぞ。
本尊の観音さまもさぞ喜んでおられ
るだろう」



三郎は、全財産を寺に寄進しました。
そして、寺の手伝いをしながら暮ら
しました。
和尚は、石になってしまった愛犬に、
毎日お経をあげています。


              つづく



「鹿になった観音さま」は、信州の
伊那谷・「三穂」に伝わっている話
をヒントにして、みほようこが書い
たもの。