赤い夕顔の花17
「殿様。いつも鹿狩りに行くあの
山へ逃げましょう。
そうすれば、下条の追手から逃げ
切ることができます」
盛永と犬坊は、いつも鹿狩りに行
く山に向かって逃げて行きました。
後をふりかえると、城がめらめら
と燃えています。
「城が燃えている。さっきまで住
んでいた城が燃えている」
盛永が、うわごとのようにいいま
した。
「あの城は、領民たちの年貢で建
てた城。その城が、燃えている。
城は、わしひとりのものだと思っ
ていた。でも、よく考えてみれば、
城は領民たちのものだったのだ。
あの城は、領民たち一人一人の汗
の結晶だったのだ。
わしは、この五年間、三つの城を
つくることに夢中で、そんなこと
にも気がつかなかった。
城主になってから、領民のことな
ど一度も考えたことがなかった。
つづく
「赤い夕顔の花」は、信州の南端
にあった「権現城」に伝わってい
る話をヒントにして、みほようこが
書いた物語。