赤い夕顔の花


   赤い夕顔の花20


「犬坊。三年前、おまえに会った
のは、この小屋の近くだったのぅ」
「殿様、よくおぼえていますね。
あれは、殿様が鹿狩りをしていた
時でしたね」



「おまえは、わしが追っていた鹿
を、たった一本の矢で射止めた。
すごい少年がいるものだとびっく
りした」



「私は、おじから弓とやりを習い
ました。おじは、若い時、ある藩
につかえていました。
私は、弓とやりだけは、誰にも負
けません」
犬坊がいいました。



「犬坊。だから、わしの小姓にな
ってもらったのじゃ。
おまえは、城へ行くのはいやだと
いったそうじゃのぅ」
「はい。私は、おじとともに、畑
を耕しのんびり暮らしたいと思っ
ていました。だから、おことわり
したのです」


             つづく



「赤い夕顔の花」は、信州の南端
にあった「権現城」に伝わってい
る話をヒントにして、みほようこ
書いた物語。