赤い夕顔の花26
「落ち着け、落ち着くのだ。
たかが、寝言ではないか」
犬坊は、自分の心に何度もそうい
いきかせました。
でも、犬坊は、自分の気持をコン
トロールすることができなくなっ
ていたのです。
「盛永さまは、私ひとりのものだ。
奥がたのお万さまになどわたすも
のか。長五郎さまにもわたさない。
誰にもわたすものか」
そうさけぶと、犬坊はやりをかま
えました。
「犬坊。おまえは、この世で一番
かわいがってくれた人に、やりを
むける気か。
落ち着け、落ち着くのだ。そんな
ことをしたら、おまえは一生後悔
するぞ」
どこからか、声が聞こえてきました。
つづく
「赤い夕顔の花」は、信州の南端
にあった「権現城」に伝わってい
る話をヒントにして、みほようこが
書いた物語。