火とぼし山


   火とぼし山56


「きよちゃんは、いつもそんなふ
うに祈っているの」
「祈っているわ。次郎さんのこと
も、元気で暮らせますようにと、毎
日祈っている」



きよのことばを聞き、次郎は思い
ました。
おらは、暗い夜道を、何時間もか
けて訪ねてくるきよちゃんのこと
を、一度でも祈ったことがあった
だろうかと。



「次郎さん。私ね、湖を泳いでい
ると、魚になっちゃったのかなっ
て、思う時があるの」
「魚になる?」



「そんな時は、すーいすーいと、
早く泳げるの。
誰かが、たぶん神様でしょうね。
私を守っていてくれるのだなって
思うわ」


            つづく



    昨日の分は、こちら。


http://d.hatena.ne.jp/youko510/20100504#p1



    初めて読んでくださったかたへ


http://d.hatena.ne.jp/youko510/20100309#p1



信州の諏訪湖には、「火とぼし山」
という悲しい伝説があります。
「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。