火とぼし山

[童話]火とぼし山


火とぼし山 35


第四章 一ヶ月に一度の出会い 9


「おや? 向こうから歩いてくるのは、あの娘だ。
名前は、なんていったかのぅ。そうそう、きよと
かいっとったな。湖の氷の上で会ってから、ずい
ぶんたつのぅ。何日ぶりじゃろ。あの夜は、あの
娘、とてもうれしそうな顔をしていたのに、今日
はなんだか元気がない。どうしたのじゃろ。青年
とけんかでもしたのかな」


明神さまは、奥さんの所から、上諏訪のやしきへ
もどる所でした。
「まあ、どんなに仲がよくても、たまにはけんか
もするさ。このわしだって、妻とけんかをする。
わしが、このように妻のやしきへ通うようになっ
た原因だって、ほんのささいなけんかだったものな」
明神さまは、奥さんとけんかした日のことを思い
だしました。


         つづく