赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花


赤い夕顔の花 44


「そうべえさん。私、権現城の奥がたのお万でござ
います」
「奥がたさま?」
「はい、お万でございます」
「あっ、奥がたさま。失礼しました。 奥がたさま。
そんなかっこうをして、どうなさったのですか」
そうべえが驚いて聞きました。


「昨夜、権現城は、下条の夜討ちを受けました。私
たちは、浪合の実家に帰る途中です。家臣と一緒
だったのですが、下条の追手を逃れているうちに、
はぐれてしまいました」
「奥がたさま。下条の夜討ちにあわれたのですか。
大変でしたのぅ。殿様は、ご無事かな」
「さあ、わかりません。城も焼けてしまったようで」


         つづく

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花


赤い夕顔の花 43


「以前、城で働いていた人ですよ。浪合の実家へ
帰る時には、いつもそうべえさんに送っていただ
いたのよ」
お万は、そうべえのことを、長五郎に話しました。


一時間後。
お万たちは、ようやくそうべえの家にたどりつきま
した。
「ごめんください。そうべえさんのお宅でしょうか」
「そうじゃが。どなたかな」
そうべえが顔を出しました。
でも、奥がたのお万だとわからないようでした。
うす汚れた野良着を着ているのですから、無理も
ありません。


        つづく

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花


赤い夕顔の花 42


「一日も早く、戦のない平和な世の中になりますよ
うに」
お万は、心の中で祈りました。
お万と長五郎は、下条の追手を逃れ、一晩中山の
中を歩きました。


東の空が、だんだんに明るくなってきました。
「長五郎、疲れたでしょ。だいじょうぶですか」
「だいじょうぶです」
「もうすぐ朝になりますよ。戸口へ着いたら、そうべ
えさんの家へ寄り、少し休ませてもらいましょうね」
「お母さま。そうべえさんて、誰ですか」


         つづく

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花


赤い夕顔の花 41


茂みの間から城をみると、城がめらめらと燃えてい
ます。
「城が燃えている。盛永さまや家臣たちは、だいじ
ょうぶかしら。無事に城を逃げだすことができただ
ろうか」
お万は、盛永や家臣たちのことを、心配しました。


あの城は、領民たちの年貢で建てた城。
領民たちが一つ一つ石を運こび苦労してつくった城。
その城が、燃えている。
城主の盛永が、あれほどまでに執着した城とは、一
体何だったのだろうか。
お万は、燃えている城をみて、心の中でつぶやきま
した。


         つづく

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花


赤い夕顔の花 40


「幼いこどもをつれているから、遠くへは行くま
い。どこかにかくれているのだろう。早く三人を
みつけろ」
近くで、兵士たちの声が聞こえました。
お万と長五郎は、木のしげみにかくれました。


「お母さま」
「長五郎。だいじょうぶですよ」
お万は、長五郎をぎゅっとだきしめました。
長五郎は、ぶるぶるふるえています。
「こわかったのね。かわいそうに」
お万は、長五郎を再びしっかりだきしめました。


         つづく

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花


赤い夕顔の花 39


「何をいいます、奥がたさま。わしが、最後まで二
人をお守りいたします。どうか安心してください」
家臣がいいました。
ところが、下条の追手から逃げまわっているうちに、
お万たちは家臣とはぐれてしまいました。


「奥がたさま」
「奥がたさまー。どこですか」
家臣が、遠くでお万をよんでいます。
でも、大声で返事をするわけにはいきません。
「ここですよ。私たちは、ここにいますよ」
お万は、心の中で何度もさけびました。


         つづく

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花


赤い夕顔の花 38


「だいじょうぶです、奥がたさま。奥がたさまが、着
古した野良着を着ているなんて、誰も思いません
から。さあ、先を急ぎましょう」
お万たちは、下条の兵士たちにみつからないよう
に、足早に歩いて行きました。


「何、今、百姓の一家が通ったと。それは、奥がた
と若君じゃ。すぐ後を追え」
遠くで、兵士のどなる声が聞こえました。
「奥がたさま。追手につかまらないように、早く逃げ
ましょう」
家臣が、お万をせかしました。
「奥がたさま。だいじょうぶですか」
「だいじょうぶよ。追手が近くにせまってきたら、私
にかまわず逃げてくださいね」


          つづく