2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ヒスイ峡の清き流れはきりたちし 明星山の岸壁に映ゆ 喜寿の写真を友は遺影と言ひ居りき 思ひ掛けずも今日は斎場に

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 蜀黍の生食できるピュアホワイト 甘味のありて栗の如しも 飯田より離り行くごと紅葉の 色濃くなりて小谷に向ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 頃合良く乾きし苦瓜にグラニュー糖 まぶせば干し菓子意外に旨し 山形の人等の好み食ふと言ふ スベリヒユ初めて芥子和へにする

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 畑隅に抜きても抜きても絶ゆるなき 十薬を冷蔵庫の脱臭剤に入れる 夏ばての特効薬とモロヘイヤ 厨に叩く音軽やかに響く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 梅雨明けの庭に酸漿色づきて 姉と鳴らしし遠き日を恋ふ どくだみは受粉もせずに種子を作る 単為生殖なりと知りたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 体温と同じ暑さの今日一日 体気怠く意欲も湧かず 休耕の畑に壮年団の作りたる 馬鈴薯を袋に詰め放題で買ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 天竜の川風を受け新設の 船形の足湯に和ぎつつ浸かる 綿をつめ形整へし犬の縫ひぐるみ 眼付ければ尾を振るごとし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 寒暖の微妙に変はるこの季節 ストーブと扇風機居間に同居す 一人靜二人靜の中に珍しく 三人靜の花茎立ちぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 逝きし娘の修学旅行の土産物 「孫の手」を今宵も偲びつつ使ふ ヒマラヤの岩塩層より掘りしとふ 薄紅色の塩甘くまろやか

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 海蛍は成長しても三ミリにて 寿命は僅か半年と知る 咲き盛るカモミールの花ハーブ茶に 色と香りを楽しみてのむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ハンドバックに夫の遺影を忍ばせて 子等に招かれ房総へ来ぬ 暗闇の瓶の中なる海蛍 電気ショックに青く光りぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 吾よりも腕を上げしか娘の研ぎし 包丁とみに切れ味の良し 月面より昇る地球はまん丸く 青く輝き夢見る如し

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 食生活に心配りし一月に コレステロール正常となる 人間とは贅沢なもの新聞の 大文字に馴れれば当り前となる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 アイロンを丁寧にかけて足らひをり リフォームして仕上げし手提袋を 蹲踞に乙女椿の花浮べ 春になりたる喜びとする

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 何か良き事ある如き思ひして 金緑色の玉虫を拾ふ 亡き父の筆跡懐かしみ今日も使ふ 昭和十一年旧姓の物差し

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 健やかに余生送らむと朝日浴び 貯筋体操日課に励む 新しき宇宙時代の幕開けと 「きぼう」より土井さんの喜びの声

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 軒先に列なる氷柱如月の 日に煌めきて雫し止まず 亡き父母を想ひて望む古里の 神の峰今日は黄砂に霞む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 我儘を許してくれと気楽なる 一人暮しを続け来たりぬ 読み進む「土屋文明の添削」に 劣等感の募り来たりぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 降りつづく重たき雪を掻くことにも 体力の限界を思ふ老いとなりぬ 「鬼は外」とまく鬼打豆は門先の 積れる雪に忽ち沈む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 エコロジー進み来たりて送りくる 歳暮の包み簡単となる 炬燵辺に物縫ふ母と蜂蜜を かけて雪食べし遠き日想ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 この年は吾が大殺界と聞きゐしに 嬉しきこと多き良き年なりき 躓くな転ぶなと娘に労られ 一週間分の買物をする

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 囲炉裏辺に藁を叩きて作りゐし 亡き父思ひ布草履編む 娘の家のチワワは風呂や炊飯器の 電子音聞き分け教へて呉るる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 仕上がりし布の草履は足裏に 感触の良く廊下を歩む 足を開き親指にかけて草履を編む 不格好なれど致し方なし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 小春日を浴びて微笑み立ち座す ぴんころ地蔵に心の和む 日に温むぴんころ地蔵の頭撫で ぴんぴんころりを只管祈る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 懐古園巡り来たりて乾きたる 喉に懐かし甘酒を呑む 頼岳寺の静もる境内に赤彦の 扇面の歌碑雅やかに建つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 草笛のメロディー流れくる懐古園 木下の道を口遊みゆく 城跡の山本勘助ゆかりの鏡石 老いし吾が姿うっすらと写す

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 吟行の旅に橘寺より種を貰ひ 育てし芙蓉は吾が丈を越す 吾が声を聞きたくなりしと雨の日の 友の電話は胸を潤す

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 家で計る血圧よりも何故か高く 医師は素早くパソコンを打つ お彼岸に入りても真夏日続く庭 満天星早くも色付き初めぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 戦時下のおやつに母の得意なりし 蜂蜜黄粉玉久々に作る 前日の雨に埃の洗はれし 中秋の名月クレーターの模様まで見ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 二十四日振りに三十度を切りし処暑の日は 生き返りしごと家事の捗る 糸通しに苦労せし母想ひつつ 百円の器具を有り難く使ふ