2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 日だまりを黄色に染めて咲き盛る 福寿草を和紙のちぎり絵に描く 「平和とふもの売られれば買ひたい」とふ アフガンの人々やつれたる顔

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 国の対策進みてゐしに雪印の 悪事に又もや牛肉遠のく 謂れなきこの虚しさは何ならむ 香りを放つ蝋梅に寄る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 五年生の児等の育てしプリムラを 一人暮しの吾等に呉れぬ ブルカ脱ぎし乙女等の微笑みに心和ぐ アフガンのさらなる平和を願ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 戌年より作り始めし木目込人形 未申酉にて十二支揃ふ 諸もろの電子音鳴る厨辺に かまどの前の亡き母を想ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 母に似て太りし姉と父に似て 痩せし吾とが露天風呂に並ぶ わが味に似て来し娘のおせち料理 食の進みて正月を過ごす

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 桜葉の散りしくマレット場に思ひ見ぬ 良きスコアを腰下し記す 「戦」に代表されし二千一年 暗きニュースの続きて暮るる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 しばらくは楽しき夢を吾も見む 生れて初めて宝くじを買ふ 亡き母が蝗の足を嫌ひし吾に 口結びかめと言ひしを思ひ噛む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 稲の花の咲きゐる時間は一時間か 農家に育ちし吾知らざりき 百本も漬けし遠き日思ひつつ 一人分十本麹漬けにする

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 子供等との交流会に幼き日 思ひ出しつつお手玉をする 「平成の将軍ヤッシー」と知事の口上に 国盗り綱引き雨の中に始まる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 文明先生がみ子の名前に付けられし 夏美川とぞ親しみ見下ろす 幾度か霜にあてたる唐辛子の葉 母なせしごと佃煮に煮る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 「良き宿に眠りは足りぬ」と文明先生 詠まれし竹林院に吾等も宿る 西行庵は木立の中に薄暗く 面優しき坐像靜もり座す

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 声なきも吾の心に生き残る 夫に折々問ひかけて暮らす 世尊寺の桜の木下に初めて見る ツマグロヒョウモン蝶動きにぶく舞ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 世に在らばさぞや喜びし夫ならむ 香上げ娘の童話本供ふ 朝床に続け来たりし手の指廻し わが体調の目安となり来ぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 計らずも人の言葉に傷つきぬ 吾もかくして傷つけ居るや 妹等にも吾にも秘めて書きためし 童話を娘は出版をせり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 三日間土用干しせし大梅を 瓶に戻せば心安けし オフトークより今宵流るる吾が拙き 意見発表を面映ゆく聞く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き母と挽きたる香煎思ひつつ 深妙寺の石臼庭園を巡る 夫君を看とりつつ身辺の整理もし 逝きたる友を健気に思ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ヤジもとぶ県議会中の議会室に 吾の選びし議員を目で追ふ 縫ひぐるみ園児等描きし絵などを飾る 知事室と思へぬを硝子越しに見る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き夫との思ひ出多き川路駅 七十二年の歴史閉じたり これ迄は関心もたざりし党首討論 三回目今日も期待もち聞く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 植物の特徴とらへし新聞の 版画切りぬく朝のいとまに 鵯は今日も来たりて万両の 赤き実啄み池の水のむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 老人会の総会の前に逝きし君等へ 黙祷を捧げ開会となる 中国の土産に貰ひし筆下ろし 久々に子等に手紙をしたたむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 水仙の花に霧ふき羽化終へし 新しき命の蝶を止まらす 歌にせむ物を捕へて言葉を探す しばし時の間心豊けき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 黄揚羽の羽化を見せむと卵より 育てし蛹を娘は持ち来ぬ 美しく整ひて羽厚くなりし 黄揚羽を水仙の花に放てり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 家電法の施行前なる電気店 古き家電山と積まれる 十五年の役目終わりて西南の 空をミールは光りつつよぎる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 土の臭ひとその感触の親しくて 雪消えし畑にほうれん草を摘む 新しき注連縄張られし道祖神 姿小さきに春日あまねし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 日に三度の雪かき終へて息を整ふ まぎれなく体老いしと思ふ 箆のくぼみあまた残れる裁台を 久々に出し娘の着物裁つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 わが暮らし昨日に何ら変るなし 今日より始まる二十一世紀 昭和三年以来の大雪に屋根より下がる 雪のカーテンを初めてわが見る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 老い吾にも女性ホルモンの効力あるや 柘榴酒赤くルビーの如し 来る年の干支なる己の木目込人形 ピンクの衣に愛らしく仕上がる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 橘寺の五重塔の柱穴は 水面に秋雲うつし静もる お米の中に八十八人の神様が 宿ると祖母の言ひ居しが浮かぶ