2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 黄泉の国に夫と逢ひゐる娘を思ひ 澄みて輝やく星空を仰ぐ 娘の逝きて何をなしても癒されず 今日は花苗を思ひ切り買ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 苦しまず面穏やかに終りゆく 娘に末後の水をふくます 心優しく花好きなりし娘の棺 翁草咲く庭を出てゆく

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 手術後の娘の余命を知らされて ただ呆然と立ちすくむなり 三ヶ月の余命と告知されし娘の 顔を見ることも耐え難かりき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新入学に防犯ブザーが必需品となりし 物騒なる此の世を憂ふ お日待ちに千個のむすびの飯を炊く 湯気にバンダナもエプロンも湿る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 娘の病癒えざるままに立春を迎へ 君子蘭の花芽ふくらむ 松喰虫に伐りたる松の根元より 万年茸か傘広げ来ぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 初月給に子が買ひ呉れし誕生石 アメジストネックレス大切に持つ 亡き母が百畳の二階に男衆等と 蚕飼ひに励みし姿忘れず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 化粧水作らむと煮出すローズマリー 厨に清しく香りの満ちぬ 干支の申の木目込人形に眼入れ 鳥打帽かぷせばまこと愛らし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 蟷螂の卵のつきしシャコバサボテン 鉢に溢れて百余り咲く ローズマリーの細かき葉につく今朝の霜 氷花のごとくに日に煌きぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 公園より拾ひし苔むす桜の枝に 蔓梅もどきを絡ませ飾る 代表されし今年の漢字は「虎」と言ふ 吾の漢字は「看取り」なり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 病院よりCTの結果を知らせ来し 娘の明るき声に安らぐ 末っ子に生まれし吾は幼き日 姉さんと呼びくるる弟ほしかりき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 指先にリズムをとれる指廻し 呆けの予防の日課となりぬ 新しく土竜もたげし土踏めば 土の匂ひのしるく立ちくる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 悔い残さじと娘の看取りに只管に 過ぎゆく日々をゆとりなくをり 蟷螂の卵のつきしシャコバサボテン 窓辺に置きて花咲くを待つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 「親不孝で御免なさい」と看取る 吾の血圧高きを娘気遣ふ 神の峰になづさふ朝の白き雲 忘れたき過去しばし想ひぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 老化を早める活性酵素の強敵とふ ルイボスティを朝々にのむ 手術後の思ひ見ぬほど経過良き 娘に時かけ五分粥を煮る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 やわらかき風はローズマリーの香をふくみ 物干す吾の頬をなぜゆく 在りし日に夫の植ゑたる岩煙草 苔むす蹲踞に色淡く咲く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 娘が病めば電話のベルにも怯えつつ 代れるものなら代りたく思ふ 新たなる「核」の不安を抱きつつ 五十八年目の原爆の日を迎ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 惜しげなく友掘り呉れし白水引 花咲き満ちて八月終はる 娘の手術見届けて来し今宵の空 火星の輝き不気味にも見ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 長梅雨の明けし日差しに居間に置きし 備長炭を返しつつ干す 専業の主婦にて終らむわが一生 不甲斐なきとも只管なりき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 年々に白鼻心に喰はれし玉蜀黍 今年はことなく初どりをする 中国茶の茶道具一式求めきし 汝は手馴れし様に入れくるる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き夫の原紙を切りし鉄筆に ちぎり絵の和紙心してちぎる 惣教寺の枝垂れ桜の太き枝 里人添へしか竹の幾本

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 頼られて吾の成し得る小さき幸 思ひて娘の家に三日を過ごす 移り住み四十年過ぐ長野原 神の峰より見下ろして立つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 物価スライド特別措置に年金の 減額となるも致し方なし 小指ほどの花ある胡瓜数へつつ 手に巻きつけと紐に結びぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 夕べの庭に花明りするカモミール 風呂に浮かべて香り楽しむ 蕗を煮る匂ひのこもる厨辺に 亡き母の味恋ひ味見してをり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 カスピ海ヨーグルト菌にて試みに 作りしヨーグルト意外にうまし カスピ海ヨーグルトを作り朝夕に アロエや林檎のせて楽しむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 咲き盛る白き小花のカモミール 茶に作らむと日影干しする 広辞苑を使ふことなくこの薄き 電子辞書にて事足りて過ぐ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 日に焼けるもおかまひなしに都会育ちの 嫁は声あげ蕨とりをり 雨止みし夕べの畑に初どりの アスバラ手折る音の清しき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 天竜の川原近きマレット場に 雲雀の鳴くを久々に聞く 煮沸しても飲めないと言ふ水道水 非常用給水を大切に使ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 六十まで七十迄と弱き吾 在へて八十が目の前になる 舗装路の塗り替へられし白線の上 背筋を伸ばしポストへ急ぐ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 日本の箸の文化は如何になるや 骨なし魚に寂しさの湧く 現実に独居なれども言葉の響き 吾は好まず「一人暮し」が良し

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 温かき春の日差しは部屋に伸び 手毬を刺せる手許に届く 中国やタイで骨ぬきし骨なし魚 百億円の市場になるを聞く