2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

福寿草になった少女

福寿草になった少女 19 しばらくすると、雪がちらちらと 舞いはじめました。 「早く家に帰らなくては。とうち ゃんとかあちゃんが、心配してい るだろう」 福は、山をおりようと思いました。 しかし、一日じゅう山の中を歩き 回ったせいか、もう一歩も歩け…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 18 春がきたといっても、山の春は遅く、 木の芽がほんの少しふくらんでいる だけです。 どこをさがしても、黄金色の花など、 ひとつもありません。 枯葉が一面に落ちているだけでした。 福の足音と、鈴の音だけが、静かな 山の中にひび…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 17 「黄金色の花、黄金色の花。黄金 色の花がみたいなぁ」 そういいながら、福は細い急な道 を、どんどん登って行きました。 やっと、守屋山につきました。 何かにとりつかれたように、福は あてもなく山の中を歩きまわりま した。 黄…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 16 一人で留守番をしているうちに、 福は守屋山に咲いているという黄 金色の花が、むしょうに見たくな りました。 「福や、一人で遠くへ行ってはい けないよ」 いつも両親にいわれていたのに、 福は一人で守屋山へ行ってみよう と思っ…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 15 「とうちゃん、黄金色の花って、 どんな花かしら。私も黄金色の花 がみたいわ。とうちゃん、大きく なったら、守屋山へつれていって ね。きっとよ」 福は、長者と約束しました。 それから一年が過ぎました。 山深い村にも、ようやく…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 14 福が七才になった春のことです。 「福や、守屋山にはな、雪がとけ る頃、黄金色の花が咲くというい いつたえがあるのだよ。黄金色の 花は、春を告げる花だといわれて いる。 黄金色の花をみた人は、一生幸 せにくらせるそうだ。とう…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 13 「とうちゃん、かたをたたいてあ げる。そこへすわって」 福は小さな手で、長者のかたを、 とんとんとたたいてくれます。 「きもちが良いのぅ。福、ありが とよ」 長者はうれしそうです。 「かあちゃん、なにかお手伝いす ることな…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 12 大人ばかりの静かなやしきが、と てもにぎやかになりました。 笑い声のたえない、明るい家にな ったのです。 「ほら、みて。福が笑っているわ。 かわいい笑顔ね」 「福がね、はいはいできるように なったのよ」 「つかまりたちがで…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 11 「この子に、たくさんの福が授か りますように」 長者は女の子に、「福」となづけ ました。 「長者さまに、かわいい女の子が 授かったそうだよ」 「だんなさまも奥様も、どんなに うれしいことか。本当によかった のぅ」 「これから…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 10 「なんて清らかな目をしているの でしょう。だんなさま、この子を 我が家で育ててあげましょうよ」 「そうだのぅ。明神さまがわしら にこの子を授けてくれたのかもし れんのぅ」 長者夫婦は、女の子をわが子とし て育てようと、決め…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 9 女の子は長者の顔をみて、にっこ りほほえみました。 「おう、おう。よいこじゃのぅ」 長者は目を細め、女の子をあやし ます。 「ねぇ、私にもだかせて」 奥さんは女の子を受け取ると、や さしくほおずりしました。 すると、お乳の甘…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 8 「まさか・・・」 おくさんも鈴を手にとり、ふって みました。 「リーン・リーン・リーン」 清らかな音色が、あたりにひびき ました。 「なんでこんなかわいい子を捨て るのじゃ」 「きっと理由があったのでしょう。 こんなかわいい子…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 7 長者が守り袋をとりあげると、「リ ーン・リーン」と、良い音がしました。 袋の中には、鈴が入っているようです。 女の子のおかあさんが、お守りのつも りで、鈴をおいていったのでしょうか。 長者が袋をあけてみると、中には黄金 色…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 6 「だんなさま、門の所に赤ちゃんが・・・ 赤ちゃんが捨てられています」 「何?赤ちゃんが捨てられていると・・・」 「はい、赤ちゃんが捨てられてい ます」 長者と妻は、門の方へ走って行き ました。 門のそばには、桃色の布で包まれ…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 5 「こどものことを、毎日お願いし ているのに、なぜ明神さまは、わ しらの願いを聞いてくれないのじ ゃろ」 二人は、こどものことを、あきら めかけていました。 そんな春のある日。 庭の桜が、満開になりました。 「今年の桜は、みご…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 4 「私たちには、もうこどもが授か らないのかしら」 「いや、そんなことはない。二人 で一心にお願いすれば、明神さま が元気なこどもを授けてくださる にちがいない」 二人は、いつかこどもが授かると 信じ、毎日明神さまにこどものこ…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 3 「じゃんけんぽん」 「あいこでしょ」 「もーいいかい」 「まぁーだだよ」 やしきの広い庭からは、近所のこ どもたちの、元気な声が聞こえて きます。 「わしらにも、元気なこどもがほ しいのぅ」 こどもたちをみるたびに、二人は そ…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 2 しかし、長者には、たった一つない ものがありました。 子宝です。 長者夫婦は、人がうらやむほど、仲 の良い夫婦でした。 しかし、なぜかこどもが授かりません。 「明神さま、どうかわしらに、元気 なこどもをお授けください」 そう…

福寿草になった少女

福寿草になった少女 1 諏訪湖の近くに、守屋山という山 があります。 「守屋山には、明神さまが住んで おられる」と、いわれています。 山のふもとに、朝日長者とよばれる、 大きなやしきがありました。 長者は、宝がいっぱいつまった、い くつもの蔵を持っ…

竜神になった三郎

童話「竜神になった三郎」を読んで いただきありがとうございました。 竜神になった三郎http://d.hatena.ne.jp/youko510/20161204#p1 http://www.geocities.jp/dowakan/douwasyuu2.html 童話集「竜神になった三郎」感想文 http://d.hatena.ne.jp/dowakan/200…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 38 すると・・・。 「三郎、いろいろ大変じゃったのぅ。 おまえの妻は、私の娘じゃ。三郎よ、 娘を大切にしてくれてありがとう。 おまえがどんなに心の優しい人間か、 よくわかった。 これからは、娘とともに諏訪湖に住 み、この地方の人…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 37 湖の底には、こいしい妻がいました。 愛する妻も、竜になっていたのです。 「おっかあー」 「三郎さーん」 二人はしっかりだきあいました。 三郎を諏訪湖で失った妻は、悲しみ のあまり諏訪湖に入り、なくなりま した。 そして、竜に…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 36 三郎はがばっと体をおこすと、諏 訪湖めざして進みました。 気がつくと、三郎は竜になってい ました。 「はぁっ、はっ」 三郎は大きなあらい息をはくと、大 空にまいあがりました。 竜になった三郎は、あっという間 に諏訪湖に着きま…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 35 三郎は何度も何度もさけびました。 すると・・・。 気のせいでしょうか。 「三郎さーん、三郎さーん」 妻のやさしい声が、聞こえたよう な気がしました。 「おっかあ、おっかあー。どこに いる。いたら返事をしてくりょー」 三郎はひ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 34 「もしかして、おっかあは諏訪湖 へ行ったのかもしれない」 そう思った三郎は、諏訪湖をめざ してはっていきました。 「おっかあー、おっかあー。どこ にいるー。いたら返事をしてくりょー」 三郎はたちどまり、大声でさけび ます。 …

竜神になった三郎

竜神になった三郎 33 三郎は、兄たちの家へも行ってみ ました。 しかし蛇の姿ではどうすることも できません。 「兄たちがあんなひどいことをす るなんて。おれは兄たちのことを、 一度も疑ったことはなかったのに・・・」 諏訪湖へつきおとされた時のこと…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 32 やっと、なつかしいわが家につき ました。 「おっかあ、帰ったぞ。おっかあ、 元気でいるか」 三郎は、大声で妻をよびました。 しかし、何の返事もありません。 それどころか、家のまわりは草だ らけでした。 いつ草をかったともわか…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 31 のどがかわいた三郎は、水を飲 もうと、近くの沼へ行きました。 「おや、なんだろう」 沼に写った自分の姿をみた三郎 は、腰がぬけるほどびっくりしま した。 三郎の体は、うろこのついた大き な蛇になっていたのです。 「せっかく村…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 30 三郎は、妻に会いたい一心で、休むこ となく毎日歩き続けました。 「この道をまっすぐ行けば、本当に地 上へでることができるのだろうか」 「早くおっかあに会いたいな。おっか あは元気でいるだろうか」 三郎は、妻のことばかり考え…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 29 そして、鹿のなまぎもでつくった もちを千枚、三郎にくれました。 「地上へでるまで、千日かかる。こ のもちを、一日一枚ずつ食べなさい。 そうすれば、無事に地上にでること ができるだろう」 「神様、ありがとうございます。で はい…