2021-01-01から1年間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ゴトウ虫を入れて焼きたる香ばしき おやきの味のいまだ忘れず 薪を割る父の傍らに皿持ちて 出でくるゴトウ虫を楽しみ待ちき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 夢を良く見るのは脳の活性の 印と聞けど吾はあまり見ず 朝光に清すがと咲き香り立つ カモミールを茶に味はひてのむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 戦時下に四人の子等を育てし吾 老後に備ふる余力なかりき 株殖えしカモミールの花香りつつ 月夜明りに仄白く浮く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 古里の空に向ひて手を合はせ 独りの暮しの一日始まる 初任地の夫の若かりき面影を 偲びつつ校庭の桜を娘と見る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 春待ちし心に嬉し五加三つ葉 摘みて夕餉の食のすすみぬ 亡き人を離りし人を偲びつつ 春の空ゆく雲仰ぎ立つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 足痛めし友の歩調にわが合わせ 早目に出でて会合に行く 鏡に写る皺の目に立つ老いし顔 心迄老いるなと己に言ひ聞かす

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 浄化脱臭除菌作用あるときく 備長炭入れ炊きし飯旨し ごみ出しの一輪車とめ君の飼ふ 鶯の鳴くを耳澄まし聞く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 古里の「事の神送り」の今宵なり 事ぼた餅を作り母を偲びぬ 弱かりし吾に食べさすと父の叩きし とり骨だんごの味を忘れず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新しき年の始めの望の月 祈りにも似る心地して仰ぐ うすれゆく記憶の戻る古里の 水車小屋跡に母のまぼろし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 イヌノフグリの小さき花の蜜を吸ふ 蜜蜂の群れ羽音かそけし 「人生に余生はない」を読み終へて 何か身内に力湧きくる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 子の家に年取りすませ仰ぐ空 十三夜の月煌々と照る 携へ来し夫の写真に年取りの 陰膳を子は整へ呉るる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 小鳥等の寄りて餌台のりんご啄むを 雪見障子を上げて見てをり 古里の神の峰に向ひ朝々に 己励まし己慰む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 吾が庭に生れし蟷螂か網戸の上に 命尽きたるを土に埋めやる 漬け大根百本洗ひし遠き日を 思ひつつ一人分十本を洗ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 母を偲ぶよすがとなれる茶の花よ ひそかに咲きてもろく散りゆく 独り暮らしの心さらして詠める歌 蔑む人あり羨しむ友あり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 稲刈りの済みし輪だちの水たまり 番のとんぼしきりに尻打つ 園児等と「オヒトツオロシテオーサラリ」 ほのぼのとしてお手玉をとる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新アララギに吾と同じく独り暮らす 人の歌多し己励ます 咲き初めしホトトギスの花を夫に供へ 新アララギに五首のりしを告ぐる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 雨に濡れる石畳下り宗紙愛用の 泉の水を味はひて飲む 夏ばての特効薬と亡き母は 大根葉の胡麻和え作りて呉れき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 久々の青空の下電線に 小鳥等五線譜のごとくとどまる 何時か吾も受けねばならぬ介護保険 制度のしくみ寂しみて読む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 何げなき人の言葉に傷つける 友を思ひて話題をそらす 日の向きに斜めになりて勢へる アロエの鉢の向きを変へたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 文字よりも小さき虫が今宵読む 新アララギの上をひたすらに這ふ 独り守る独りの暮しに吾が馴れて 夫在りし日より逞しく老ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き兄に面輪の良く似し俳優の 主役のドラマ親しみて見る 新アララギの表紙絵にのりし蝸牛思ひつつ ブロックの塀に角出すを見る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 心疲れし今宵は人の歌まねて 庭の黄バラを風呂に浮かしぬ 仕合はせを人の物差しで計るなと 夫亡き吾に兄言ひし忘れず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 登り来て息ととのふる朴の木下 落葉もたげて二輪草咲く 耕運機去れば忽ち黒土に 鴉が降り来雀等が下り來

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 緑打つ雨にこもりて心安し 和紙を広げてちぎり絵に励む その気になれば何時でも来よと言ひ呉るる 子等あれば安し一人暮らせど

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 窯出しの楽焼の鉢ぴちぴちと 音立て徐々に色変はりゆく 幾夜さか耳につきたる蛙の声 何時しか眠りを誘ふ声となる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 わが育てし三葉アスパラ独活茗荷 春の香親し今宵の食卓 亡き兄が吾につけたる渾名なる 足長蜂を愛しみて見る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 山草を好みし娘の植ゑゆきし イカリ草萌え二輪草萌ゆる 炊飯器やレンジの電子音鳴る厨に 亡き母のせし炊事思ひぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 石垣の間に萌えしカモミール 残して今朝の川掃除終はる 猿庫の苔むしし岩間くぐり落つる 名水は喉に沁み渡りゆく

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新アララギに心新たに励まむと 詠める歌多し吾も励まむ 知至先生の面影胸に巡るみ庭 クリスマスローズの花の優しき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 里帰りの吾等に池の鯉すくひ 持て成しくれし父母も兄も亡し 苦土石灰まく菜園に亡き夫の 好みて植ゑし花大根萌ゆ