2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

女神さまからのおくりもの

諏訪からきた少年 4 実の兄弟のように育ったふくの 死は、清太にとって忘れること のできない悲しい辛い思い出で した。 「ふくちゃんにそっくりな少女が、 目の前にいる」 清太は、夢をみているのではな いかと思いました。 年の近い二人は、すぐ仲良しに …

女神さまからのおくりもの

諏訪からきた少年 3 一方、清太は、「あっ、ふくちゃ ん」とさけびそうになりました。 朝日長者の娘、ふくにそっくり だったからです。 「ふくちゃん。やっぱり生きて いたんだね」 清太は、心の中でそっとつぶ やきました。 ふくは、清太の母の乳で、大き …

女神さまからのおくりもの

諏訪からきた少年 2 「清太さん。もう白駒に会ったの」 「はい。今、会ってきました。白駒 は、雪のように白い美しい馬です ね。それに、やさしい目をしている。 あんなすてきな馬の世話ができる なんて、幸せです」 清太は、白駒が気にいったようで した。…

女神さまからのおくりもの

諏訪からきた少年 1 それから二年がすぎました。 まゆみの実が桃色になった秋の ある日。 庄屋の家へ、少年がやってきま した。 「清太。これが、わしの一人娘、 きよじゃ。今、九才」 「きよです。よろしく」 「おらの名は、清太。十二才。 諏訪からきまし…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 10 「わしも、大好きじゃ。白駒は、 やさしい目をしている。わしは 若い時から、庄屋の家で馬の 世話をしてきた。でも、こんな 利口な馬は、初めてじゃ」 おじいさんは、感心したように いいました。 白駒が一才になると、きよは白 駒の…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 9 その後。 何日たっても、飼い主はあらわれ ませんでした。 白駒は、他の馬や牛と一緒に、庄 屋の吉衛門の家で大切に育てら れました。 きよは、白駒に会いに、毎日馬小 屋へ行きます。 「おじいさん。白駒は元気?」 「元気ですよ、おじ…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 8 「きよの好きな名前にしなさい」 「じゃあ、白駒」 「白駒か。いい名前だね」 吉衛門が、うれしそうにいいま した。 「あなたの名前は、白駒よ。今 日から、わが家で暮らすの。私 は、きよ。とうちゃんの名前は、 吉衛門。よろしくね」 …

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 7 「きよ。しばらく、この馬を預かっ てあげよう」 「とうちゃん。この馬、誰の馬か しら」 「誰の馬だろうね。馬がたおれて いた所へ、わが家の住所をおい てきた。飼い主がいれば、訪ね てくるだろう」 「早く迎えにきてくれるといいね…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 6 湖のまわりを歩いていると、こ の馬がたおれていたんだ。 馬は、足にけがをしていた。 とうちゃんはよもぎを探し、傷 の手当てをしてやった。 近くに家があるかなと探したが、 一軒もない。 湖は、こわいくらいに、しーん と静まりかえ…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 5 その後。 再び帰る道を探し、山の中を歩 いた。 しばらくすると、「こっちですよー」 という声が。 女のひとのやさしい声だった。 声のした方へ歩いて行くと、突然 目の前に大きな湖があらわれた。 青く澄んだ美しい湖だった。 湖のまわ…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 4 はっと気がつくと、全然知らない 場所にいた。 道に迷ってしまったのさ。 とうちゃんは帰る道を探し、山の 中を歩いた。 でも、帰る道がみつからない。 あせった。 しかし、あせってみてもしかたが ない。 とうちゃんは、倒れている木の…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 3 吉衛門は、とってきたきのこを 選り分けながら、子馬と会った 時の様子を、きよに話してくれ ました。 今朝。 とうちゃんは、夜があけないう ちに、八ヶ岳のふもとの山へ、 きのこをとりに行った。 山へ着いたのは、朝日がのぼ るころだ…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 2 すると。 庭には、かわいい子馬が。 雪のように白い馬でした。 子馬は、つぶらなひとみで、きよ をじっとみています。 「わぁー、かわいい馬。とうちゃ ん、この馬、どうしたの」 「足にけがをしていたので、つれ てきた」 「どこからつ…

女神さまからのおくりもの

白駒は、誰の馬? 1 八ヶ岳のふもと、佐久の里にも、 さわやかな秋がやってきました。 ふもとの山では、木々の紅葉が 始まりました。 「ただいま」 吉衛門が、山から帰ってきました。 「とうちゃん、お帰りなさい。きのこ、 たくさんとれた?」 「とれたよ…

女神さまからのおくりもの

プロローグ 7 こどものいない長者夫婦は、そ の子に「ふく」と名前をつけ大切 に育てました。 ふくに乳を飲ませてくれたのは、 清太の母でした。 清太とふくは、実の兄弟のよう に仲良く育ちました。 それから三年がすぎました。 八ヶ岳のふもと、佐久の庄…

女神さまからのおくりもの

プロローグ 6 十一カ月後。 守屋山のふもとの村に、元気な 男の子が生まれました。 清太と名づけられた男の子は、す くすく大きくなりました。 清太が生まれて一カ月後。 桜の花が満開になったある日。 朝日長者の門前に、生後一カ月 位の女の子と、梶の紋がつ…

女神さまからのおくりもの

プロローグ 5 「出発は、いつでしょうか」 「二十日後」 「えっ、二十日後?」 「そうじゃ。急なことで悪いのぅ。 どうしても、ふくと一緒に、あち らの国へ行ってほしいのだ。あ ちらへ行ったら、いろいろなこと を経験しておいで。じゃあ、清太 頼んだぞ…

女神さまからのおくりもの

プロローグ 4 「それはわからぬ。会えるかも しれないし、会えないかもしれ ない。・・・というのは、あちらの 国へ行く時、すべての記憶が消 されてしまうからじゃ。 だから、きよに会っても、妻だ ったということがわからない。 でも、きよと清太は、ほん…

女神さまからのおくりもの

プロローグ 3 「何でしょうか」 「ふくと一緒に、あちらの国へ 行ってもらえないだろうか」 「私がですか」 「無理かのぅ」 「妻も、一緒でしょうか」 「いや、今回は別々じゃ。でも、 きよも、あちらの国へ行く予定 があるらしい。何年後になるか わからな…

女神さまからのおくりもの

プロローグ 2 「実は・・・ふくが、あちらの国へ 行くことになった」 「ふくちゃんが・・・ですか。さみ しくなりますね」 「ふくも、清太やきよと別れるの が辛いようじゃ」 「ふくちゃんは、どちらへ」 「守屋山のふもとの村じゃ」 「その山は、たしか・…

女神さまからのおくりもの

プロローグ 1 「あのかたが、丘の上で待ってい ますよ」 清太は、丘へ向かって、馬を走ら せました。 「何か御用でしょうか」 「清太は、こちらへきて、何年に なる?」 「五百年になります」 「そうか、そんなになるのか。月 日のたつのは、早いものじゃの…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 22 梅の花匂ふ袂のいかなれば 夕暮れごとに春雨の降る 文次は、「あの人の香りが残る袖 は、毎夜私の涙でぬれている」 という意味の歌をよみました。 文次は、梅香のことがわすれら れなかったのでしょうね。 この歌をよんだ翌日、文次は…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 21 「あの美しい女の人は、早梅の 精だったのかもしれない」 文次は、そう思いました。 そうです。 文次の前にあらわれた女の人は、 月香寮の前に咲いている早梅の 精だったのです。 つづく

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 20 いや、夢ではない。わしは、梅 香となのる女の人と、たくさん の歌をよんだ。ほんとに楽しい ひとときだった」 文次は、小声でつぶやきました。 すると・・・。 風もないのに、梅の花びらが、ひ らひらと文次の上に舞いおりてき まし…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 19 梅の花が、月あかりに照らされ 美しくみえます。 何事もなかったかのように、梅 の花の香りが、あたり一面にた だよっていました。 東の空が、だんだんに明るくな りました。 「ちゅん、ちゅん、ちゅん」 すずめのなき声も聞こえます…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 18 女の人は、「ちぎりをかわす相 手が梅の花ならば、翌朝はとて もよい香りが残っているでしょう」 とよんだのでしょうね。 女の人は歌を読むと、静かに奥 へ消えていきました。 どのくらいの時間がすぎたので しょうか。 文次が目をさ…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 17 袖の上に落ちて匂へる梅の花 梢に消ゆる夢かとぞ思ふ 「袖に落ちた梅の花は、夢の中 でちぎった女性のようだ」という 意味の歌をよんだ文次は、眠く なってねてしまいました。 女の人は、文次の寝姿をじっとみ ていました。 しきたへ…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 16 「どうやったら、こんなに早く、 歌がよめるのだろう」 文次は、ふしぎに思いました。 文次が一句よむと、続けて女の 人が一句よみました。 歌をよむたびに、女の人は酒と 料理をすすめます。 何句よんだでしょうか。 二人は、数えき…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 15 「うまいっ」 文次は、思わず声をあげました。 こんなうまい酒を飲んだのは、 初めてでした。 酒からは、梅の花のいい香りが ぷーんとしました。 「文次さん。歌をよんでくださ いな」 「じゃあ、一句よみましょうか」 文次が、歌をよ…

開善寺の早梅の精

開善寺の早梅の精 14 床には、禅語の軸がかかってい ます。 唐胴の一輪ざしには、梅がさし てありました。 部屋の中は、梅の花の香りでい っぱいでした。 「文次さん。ちょっと待ってい てくださいね」 そういって、女の人は、奥へ入 っていきました。 そ…