2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 アクリルの派手なる毛糸に編みあげし 魔法の束子厨に映ゆる 老人会の席に吾等の洗ひたる 座布団に座る感触の良し

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 借金が税収よりも多き国の財政 老いといへども心の痛む 後幾年かくして野菜作り得るや 虫の音聞きつつ豌豆を蒔く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新米の季くれば想ふ五平餅 焼き呉れし父母囲炉裏辺のはらから 落葉炊きし残り火気遣ひ外に出でて 暮れ行く年の満月仰ぐ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 友逝きて空き家となりし庭内の 満天星の紅葉に声かけて見る 吾等洗ひし座布団カバー二百枚 あねさん被りしてかけ替へ終はる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 野尻湖の湖畔の雪を珍しみ 丸めて友等としばし遊びぬ 雪被く妙高山の上空に 十六夜の月嵌めこまれたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 すだく虫聞きつつ間引きし大根葉 母作りしごと胡麻和へにする 歌会に行くには辛き雨なれど 芽生えし秋野菜思へば嬉し

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 わが庭に生れたる蝉の抜け殻か 網戸に一つ止まりてをりぬ 天候の不順に里芋の株張りて 一株の収穫ボール一杯

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 初どりの玉蜀黍にて作りたる コーンスープに食の進みぬ 新盆の蝋燭の揺らぎに在りし日の 友の笑顔のしばし浮かびぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 久々の雨を喜び鋤きて匂う 畑に大根菠薐草をまく 独り居の媼施設に入り行きて 菜園たちまち草に覆はる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 暮れなづむ庭に半夏生の白き葉と 紫陽花の白花浮き立ちて見ゆ 人の死はかくも容易く来るものか 心通ひし三人旅立つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 次に見るは二十六年後の皆既日食 亡き夫の許に吾は居るらむか 菜園の土手草刈りに仔蛙は 左右に跳ねて手許狂はす

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 卒寿迄リュックを背負ひ買物に 行きたる友の幻にたつ 皆既日食四十六年ぶりに吾が観んと 「ピンホールスコープ」を作りて待てり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 楽しみて聞く党首討論弥次多く 「静粛」のみが頭に残る 二人靜の花のごとくに雄しべと雌しべだけ ある花を「裸花」と知りたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新玉葱のサクッと切れる感触の 心地の良くてピクルスを作る 夫君の全快を祈り友の折りたるか 小さき千羽鶴部屋に飾れる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 大噴火の恐ろしき偲び浅間山 北斜面に続く溶岩を見つ 吾が選歌して下されし石井先生の 「東楓集」を偲びつつ読む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 子供等の健康を祈り鬼押出しの 観音堂の鐘を鳴らしぬ 鬼押出しの黒き岩間の奥深く 光鱗金の光を放つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 蟷螂の卵のつきし五加の枝 燃やさず残し畑隅にさす 軽井沢のショッピングプラザ人群れて 見て居るのみにただ疲れたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 園芸店の花から花へ蝶の舞ふ 花苗を迷ひ手間どれる間を 欄杆に寄りて見下ろす天竜川 散り込む桜の花が筋なす

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 二輪草と九輪草の萌え確かむる わが背に春日温かくさす 若き日は思ひ見ざりし玄関の 上がり框に踏台を置く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 若き等の帰りし後のどの蛇口も きつく締められ吾は戸惑ふ 友逝きて空き家となりし塀の外 眩しきまでに水仙の咲く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 娘の部屋の鉢植ゑパパイヤ楕円形の 五センチ程の青き実つけぬ 泥んこになりて田螺を亡き兄と 競ひてとりし遠き日恋ほし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 在りし日の友手作りの柏餅 また栗おはぎの味を忘れず 茶に呼ばれ往き来せし友二人逝き 心淋しき正月となる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 畑隅に落葉を厚く被せ置きし 明日葉の緑日につやめけり 花作りと野菜作りを好みし友 草とりてゐし姿眼に見ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 エコロジー進み来たりて二月より レジ袋五円の貼り紙目に立つ 満開の黄梅の花に雪の降り 氷雨に変はり暮れゆくが見ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 財もなく夫亡く老いし吾なるも 宝と思ふこの子ども等は 干草を積める畑隅に黒き野良猫 今日も安らに昼寝してをり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 健やかに生れ育つを祈りつつ 曽孫のベビー服一式を編む 応募数十一万票より選ばれし 今年の漢字は「変」と決まりぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 正月も帰宅できずと病院からの 友の電話が別れとなりぬ 仕事も住む所も失ひて正月を 「派遣村」に過ごす人等思ひぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 都会育ちの嫁は声あげりんご園に 真っ赤なふじを籠一杯捥ぐ 正絹の紅白の布を斜めに裁ち 作りし薔薇の花の愛らし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 物忘れ多くなりしを互みに言ひ 今宵の宿に湿布薬貼る 良き事の何かあるごと思ひして我はクローバーの五つ葉を摘む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 天国に座す夫君と今頃は 何を語りて友は居ますや お互ひの家に寄りては共に手芸に 励みし友よ急に身罷る