2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 22 第三章 湖の氷の上を歩く娘 4 「うまいっ」 次郎は、うまそうに酒を飲みました。 「きよちゃん。この酒、温かい。どうしたの」 「次郎さんのことを思いながら、歩いてきた の。それだけよ」 きよちゃんは、おらのことをこ…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 21 第三章 湖の氷の上を歩く娘 4 「次郎さん、こんばんは」 「きよちゃん。今夜は、ずいぶん早かったね」 「私、湖の上を歩いてきたの」 「えっ、湖の氷の上を?」 次郎が驚いて聞きました。 「一分でも早く、次郎さんに会い…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 20 第三章 湖の氷の上を歩く娘 3 「あぶない」 「そっちへ行ってはだめ」 明神さまは、はらはらしながら、娘の後を ついていきました。 「娘よ。なぜ氷の上を歩くのじゃ。湖の氷 は、まだ薄い。湖に落ちれば、死んでしま う…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 19 第三章 湖の氷の上を歩く娘 2 明神さまは、諏訪地方を守っている神様。 農耕の神様・狩猟の神様・風の神様ともいわれ ています。 明神さまは、下諏訪に住んでいる奥さんの所へ 行く途中でした。 「娘か。こんな寒い夜、あ…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 18 第三章 湖の氷の上を歩く娘 1 北風が吹く寒い季節になりました。 諏訪湖には、氷がはっています。 今日は、次郎と会う日。 きよは、湖の氷の上を歩いて行こうと思いま した。 でも、湖の氷はまだ薄く、氷の上にのぼると、…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 17 第二章 再会 7 「十日後なんて、いや。私、毎晩でも次郎さん に会いたい。だって、引っ越しをする前は、毎 日次郎さんと会っていたんだもの」 きよが、さみしそうにいいました。 「じゃあ、五日後に会おう。きよちゃん。…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 16 第二章 再会 6 「次郎さん。体だけは気をつけてね」 「きよちゃんもね」 二人は、別れてからのことを、一晩中語りあ かしました。 楽しいひとときでした。 東の空が、だんだんに明るくなってきました。 「きよちゃん。ぼ…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 15 第二章 再会 5 「おらが働いている家では、蚕をたくさん飼 っている。桑の葉をつむのは、おらの仕事な んだ。きよちゃん。諏訪地方の養蚕は、誰が 始めたか知っている?」 「諏訪の神様と奥さまが、始めたんでしょ。 二人…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 14 第二章 再会 4 「次郎さんに食べてもらおうと思って、持って きたの。食べて」 きよは、次郎にむすびをわたしました。 「うまいっ」 「おいしいでしょ。次郎さん」 「うん、うまい。きよちゃん、中に入っている 梅ぼしも…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 13 第二章 再会 3 「きよちゃん。ほんとにきてくれたのだね。 ありがとう。おらも、きよちゃんに会いたか った」 次郎は、笑顔できよを迎えてくれました。 きよは、次郎の笑顔をみたとたん、疲れがい っぺんにふきとびました…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 12 第二章 再会 2 西山に、ぽっと小さな火がともりました。 次郎と約束していなければ、みのがしてしまい そうな小さな火でした。 「あっ、次郎さんだ。約束通り火をたいてくれ たのね。次郎さん、ありがとう」 きよは、遠く…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 11 第二章 再会 1 今日は、次郎と会う日。 早めに仕事を終えたきよは、西山に太陽が沈む 頃、次郎が住む西の村に向かって出発しました。 「とうちゃん、かあちゃん。行ってきます」 「きよ、気をつけて行くのだよ。次郎君に…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 10 第一章 次郎、西の村へ 8 春は、座禅草を。 初夏には、れんげつつじを。 夏には、日光きすげを。 秋には、松虫草やすすきをみに行きました。 年頃になった二人は、いつしか強く心をひかれる ようになっていたのです。 三…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 9 第一章 次郎、西の村へ 7 「十日後に、会おう」 「次郎さん。場所がわかるように、うんと大きな 火をたいてね」 「うん、わかった」 二人は、かたく約束しました。 きよと次郎は、幼なじみ。 小さな時から、仲良しでした。 …

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 8 第一章 次郎、西の村へ 6 「でも・・・きよちゃんは、女の子。暗い夜道を 何時間も歩かなくてはならないのだよ。きよちゃ ん、夜道を一人で歩けるの」 次郎が心配して聞きました。 「大丈夫。次郎さん」 きよは、きっぱりい…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 7 第一章 次郎、西の村へ 5 「おらも、きよちゃんと別れるのは辛い。でも、 仕事だからしかたがない」 次郎は、割り切っているようでした。 「次郎さん。引越しをしても、私と会ってくれ る?」 「もちろん。時々会おうね」 …

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 6 第一章 次郎、西の村へ 4 「いい仕事がみつかったんだ」 「どんな仕事なの」 「大きな農家で、住みこみで働くことになった」 「で、いつ引越しをするの」 「三日後」 「三日後?」 「仕事が忙しいから、早くきてほしいとい…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 5 第一章 次郎、西の村へ 3 きよと次郎は、土手一面に咲いていた福寿草の 花を、なつかしく思い出しました。 「やっとみつけたぁ」 そういって、二人でとびあがって喜んだことも 思い出しました。 「次郎さん。また福寿草の花…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 4 第一章 次郎、西の村へ 2 「何年か前、福寿草をみに、守屋山へ行ったこ とがあったね」 「おぼえている。あれは、七年前の春。私が十 才、次郎さんが十五才の時。朝早く起きて、守 屋山へ行った」 「守屋山へ着いてから、福…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 3 第一章 次郎、西の村へ 1 「次郎さん。みて、白鷺よ」 「白鷺?」 「ほら、あそこ」 きよが、諏訪湖の上空を指さしました。 白鷺が二羽、西山にむかって飛んでいます。 「白鷺って、美しい鳥だね」 「私、白鷺が大好き。次…

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[童話]火とぼし山 火とぼし山 2 プロローグ 2 次の朝。 「なんだ、これは?」 「すごい割れ目だね」 湖をみた人々は、びっくり。 湖の氷が割れていたのです。 氷がせりあがり、いくえにもかさなりあって います。 大きな氷の山は、こどもの背丈ほどありま…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 火とぼし山 1 プロローグ 1 星のきれいな夜でした。 みしっ、みしっ。 ぱりっ。 バリバリッ。 ばしゃっ。 諏訪湖の方から、大きな音が聞こえてきま した。 「あなた。明神さまは、今夜も奥さまのと ころへでかけたのね」 「奥さまのこと…

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」141 豊玉比売の出産 5 赤玉は緒さえ光れど白玉の 君が装ひし貴くありけり 豊玉比売の歌をうけとった山彦は、こんな歌 を返しました。 奥つ島鴨著(ど)く島に我が率寝し 妹は忘れじ世のことごと…

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」140 豊玉比売の出産 4 生まれたこどもは、鵜葺草葺不合命(うかや ふきあえずのみこと)と名づけられました。 豊玉比売は、置いてきたこどものことが心配 で、妹の玉依比売にこどものおもりをし…

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」139 豊玉比売の出産 3 すると・・・。 豊玉比売は、大きな鰐になっていました。 腹ばいになり、くねくねと身をくねらせ ています。 その様子をみた山彦は、「あっ」と大声 をあげ逃げ去りました…

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」138 豊玉比売の出産 2 ところが・・・。 鵜の羽で屋根をふきおえないうちに、豊玉 比売はお腹の痛みに耐えられなくなり、未 完成の産屋へ入りました。 「海の国では、こどもを生む時、変わった …

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」137 豊玉比売の出産 1 しばらくして、豊玉比売が、山彦の所へやっ てきました。 「私のお腹には、山彦さまのこどもがおりま す。天の神の御子を、海原で生むわけにはい きません。だから、ここ…

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」136 塩満珠と塩乾珠 3 山彦は、海彦が攻めてくるたびに、塩満珠を 使い海彦を困らせたのです。 「山彦。これまでのことを許してほしい。わ しが悪かった。これからは、全力でおまえを 守ってい…

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」135 塩満珠と塩乾珠 2 「山彦、何をぶつぶついっているのだ」 「何も」 その後。 海彦は、田に水がこないので、米がとれなく なりだんだんに貧しくなっていきました。 そして、山彦をねたみ、攻…

古事記神話「古事記物語」

[童話]古事記神話「古事記物語」 古事記神話「古事記物語」134 塩満珠と塩乾珠 1 「兄さん。ただいま」 「山彦、どこへ行っていたのだ」 「兄さんのつり針を探していました。やっと つり針がみつかりました」 「ほんとうか」 「はい」 「兄さん。つり針…