2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

女神さまからのおくりもの

座禅草が咲いている高原で 21 「きよちゃん。あの山、なんとい う山か、知っている?」 一番高い山を指さし、清太がい いました。 「赤岳でしょ」 「そうだね。じゃあ、となりの山は」 「わからないわ」 「えーとね、たしか・・・権現岳と横 岳かな」 清太…

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座禅草が咲いている高原で 20 「きよちゃん、座禅草の花こと ばを、知っている? 沈黙の愛 だって」 「沈黙の愛って」 「さあ・・・」 清太は、知っていました。 でも、てれくさくていえませんで した。 なぜなら、清太は、きよが大好 きだったからです。 …

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座禅草が咲いている高原で 19 「ふくちゃんにそっくりだった から。ふくちゃん、やっぱり生 きていたんだねって、いいそう になった」 「私とふくちゃん、そんなによ くにている?」 「ああ、よくにている。双子み たいだ。顔もにているが、むじ ゃきでか…

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座禅草が咲いている高原で 18 「かわいそうなふくちゃん」 「大切な娘をなくした長者と奥 さまは、気の毒なほどがっかり していた。かあちゃんも、しば らく元気がなかった。おらも辛 かった」 清太は、ふくのことを思い出し、 涙が出そうになりました。 …

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座禅草が咲いている高原で 17 「えっ、ほんとう? じゃあ、二人 は、兄と妹のように育ったのね」 「うん。でも、ふくちゃんは・・・八 才の時になくなってしまった」 「その話、とうちゃんから聞いた ことがある。ふくちゃんは、一人 で守屋山へ福寿草の花…

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座禅草が咲いている高原で 16 「そうだってね。おらを、きよちゃん の家に世話をしてくれたのは、朝 日長者なんだ。佐久の庄屋さまは いいかただから、あそこへ行って いろいろ勉強しておいでといわれた」 「そんな縁で、清太さんはわが 家へきてくれたの…

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座禅草が咲いている高原で 15 かあちゃんが生きていたら、ど んなにいいだろう。 母のいないきよは、いつか清太 のおかあさんに会ってみたいと 思いました。 「おかあさんは、いつも家にい るの」 「かあちゃんは、週に二度、長 者の家へお手伝いに行って…

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座禅草が咲いている高原で 14 庄屋のおじょうさまが、貧しい おらの家に遊びにくることなん て、万に一つもないのに・・・と。 でも、かあちゃんに、きよちゃん を紹介することができたら、どん なにいいだろうと思いました。 「清太さんのおかあさんって…

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座禅草が咲いている高原で 13 「そして、黄色の部分が花。座 禅草はね、雪が降っても、霜が おりても、二十数度に体温を保 っているんだって。その体温で、 雪をとかして芽をだすそうだよ。 座禅草のような植物を、発熱植 物というんだ」 「清太さんは、な…

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座禅草が咲いている高原で 12 「よくみると、そんな感じね。 あら、ここには、五つも花が 咲いている。坊さんたちが集 まって、何か話をしているみ たい」 「きよちゃん。赤褐色の部分 を、なんというか知っている? ぶつえんほうというんだよ」 「ぶつえ…

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座禅草が咲いている高原で 11 「私、清太さんといっしょに、馬 を走らせている時が一番幸せ」 「おらも、きよちゃんと一緒にい る時が、一番幸せだよ」 夢中で話をしているうちに、二人 は高原へ着きました。 高原には、あちらこちらに、赤褐 色の花が咲い…

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座禅草が咲いている高原で 10 「じゃあ、これからは・・・きよちゃん って・・・よぶね」 清太が、はずかしそうにいいました。 「白駒。出発するぞ」 「清太さんは、白駒が好きなのね」 「うん。おらは、白駒が大好き。白 駒も、おらが好きだと思うよ。ね…

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座禅草が咲いている高原で 9 「おらも、おじょうさまのこと、本 当の妹だと思っている。いや、そ れ以上かな」 清太は、心の中でそっとつぶやき ました。 「さあ、おじょうさま。出発しよう」 馬小屋へついた時、清太がうれ しそうにいいました。 「清太さ…

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座禅草が咲いている高原で 8 「それはそうだけれど・・・。おら、 この家に世話になった時から、お じょうさまってよんでいるし。急に そういわれてもね」 「私、清太さんのこと、うちの使用 人だなんて思ったことは、一度も ないわ。清太さんのこと、本当…

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座禅草が咲いている高原で 7 「さあ、おじょうさま。遅くなると いけないから、急いで馬小屋 へ行こう」 「清太さん。二人だけの時は、 きよってよんで」 「おらは、この家の使用人だ。 おじょうさまのことを、きよな んてよびすてにはできない」 「何いっ…

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座禅草が咲いている高原で 6 「諏訪の神様は、何とよばれて いるか、知っている?」 「明神さまでしょ」 「よく知っているね。諏訪の神 様は、諏訪明神とよばれている。 農耕の神様・狩猟の神様・風の 神様ともよばれているんだよ。 諏訪大社はね、日本で最…

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座禅草が咲いている高原で 5 清太は、川越しの様子をくわしく 話してくれました。 「川越しも、木落としも、命がけ なんでしょうね」 「祭のたびに、何人もけが人が でる。時には、亡くなる人もある。 山奥から巨大な樅の木をひいて きて、四つの神社に四本…

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座禅草が咲いている高原で 4 「御柱祭は、七年に一度、申年 と寅年に行われる諏訪大社の お祭だよ。中でも、上社の川越 しと、下社の木落としは、すご いね。 山から切り出された十数トンも ある樅の木が、木遣りの歌を合 図に、ずずずぅーと動く。そして、…

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座禅草が咲いている高原で 3 「その場所はね、諏訪の神様が住 んでいる守屋山のふもとなんだ。 春になるとね、林の湿地に、座禅 草がかわいい芽をだすんだよ」 いつも無口な清太が、今日は一人 でしゃべっています。 「今日の清太さんは、別人みたい」 きよ…

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座禅草が咲いている高原で 2 「おじょうさまは、座禅草の花 を知らないの」 「知らないわ」 「座禅草はね、おもしろい形を しているんだよ」 「おもしろい形って」 「みればわかるよ、おじょうさま」 清太は、おどけていいました。 「おらの家の近くでも、…

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座禅草が咲いている高原で 1 春の遅い佐久にも、ようやく暖か な春がやってきました。 庄屋の庭でも、福寿草の花が咲 き始めました。 「おじょうさま」 「なぁに、清太さん」 「これから、高原へ行こう」 「これから?」 「そう、これから。昨日、庄屋さま …

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諏訪からきた少年 11 清太と吉衛門は、なぜか親子に まちがわれました。 忙しい生活を送っている清太に も、たった一つ、楽しみがありま した。 白駒の背にきよを乗せ、八ヶ岳 のふもとの高原を、二人で走り まわることでした。 きよと高原を走っている時…

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諏訪からきた少年 10 馬にえさをやったり、馬小屋の掃 除をしたり、馬の体をふいたり。 時には、小川へつれて行き、馬の 体を洗います。 清太は、朝から晩まで、休むひま もなく働きました。 そんな清太を、吉衛門はわが子の ようにかわいがっています。 …

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諏訪からきた少年 9 「おじょうさま。実は、白駒が・・・」 「なぁに? 清太さん」 「いや、何でもない」 「変な清太さん。困ったことが あったら、何でも話してね」 清太は、白駒のことを、何度き よに話そうと思ったことか。 でも、なぜか話すことができ…

女神さまからのおくりもの

諏訪からきた少年 8 いました。 白駒は、何事もなかったかのよ うに、えさを食べています。 「よかった。白駒、どこへ行って いたの。心配したぞ。白駒が帰 ってこなかったら、どうしようと 思った」 清太は白駒にかけより、ほおず りしました。 白駒は「心配…

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諏訪からきた少年 7 白駒は、庄屋さまが宝物のよう に大切にしている馬。 みつからなかったらどうしよう。 白駒がいなくなったら、おじょ うさまはがっかりするだろうな。 なんとしても、白駒をみつけな くては。 清太は馬に乗り、白駒を探して 歩きました…

女神さまからのおくりもの

諏訪からきた少年 6 「あのひとは、誰だろう。白駒、 どこへ行くの。待ってー」 清太は、自分の声で目がさめま した。 「夢か・・・」 白駒のことが心配になった清太 は、馬小屋へ急ぎました。 小屋をのぞいた清太は、心臓が とまるくらいびっくりしました…

女神さまからのおくりもの

諏訪からきた少年 5 清太が庄屋の家へきて十日後。 月のきれいな夜でした。 「白駒」 「白駒」 誰か、白駒をよんでいます。 女のひとのやさしい声でした。 すると、馬小屋の戸が、音もな くすぅーとあきました。 そして、白駒が外へ飛び出しま した。 白駒…