2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 岩煙草岩桧葉萌え来し蹲踞を 時かけ清め水を満たしぬ 若葉より青葉に移る庭内に ブーゲンビリアの花の透け見ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 足裏のつぼの刺激に朝夕を ストレッチャーに乗りて励みぬ 温暖化防止に始めし「クールビズ」 議員等の軽装は爽やかで良し

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 母逝きし歳まであと三年か いまだ為すこと数多残れる 金肥止め堆肥入れ来し菜園に 蚯蚓の姿あまた目に立つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 日足伸び六時のチャイムを畑に聞く 伸びし碗豆に手を添へながら 見せしめの為に行ふとふ北朝鮮の 公開処刑に眼閉ぢたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 吾と共に冬を越したるブライダルベール 枯葉をつみて軒下に吊る 中国の全土に広がる半日デモ 出張に行く子の身の安全を願ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 睦まじく飛び行く番の鳥見つつ 婿に申し訳なく娘の忌に来て思ふ 冬の間を娘の家に預けゐしギンギアナム 咲きて香るを貰ひて帰る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 連れ立ちて亡き娘と歩みしこの道を 一周忌に来て歩むはつらし 娘の法要に努めて明るく振舞へる 少し痩せたる婿よ切なし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 藤村の山口村の閉村式歌ふ 「信濃の国」を寂しみて聞く 藤村も驚き在さむ今日よりは 岐阜の馬籠になりてしまひぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 一冬を見飽きし炬燵の蒲団カバー 花柄に替へて三月を迎へぬ 見学に来し八丁味噌の醸造工場 漂ふ匂ひに親しみ覚ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 節分に八十粒の豆を並べ 良く生き来しとしばし思ひぬ 貝母萌え福寿草咲く裏庭に 今年初めての草とり始む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 日曜日の楽しみの一つ新聞の クロスワードパズルを只管にうめる 「高原の宝石」と言ふ花豆を サロンヒーターに時かけて煮る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き夫への感謝の心にATMより 清しく出でし新札を見る 「足音が肥料になる」と園芸の 世界で言はれるを吾は諾ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 戌年より始めし木目込人形も 十二支揃ひ夢叶ひたり 娘の看取りに只管なりしも欠詠なく 過ぎしをせめてもの慰めとせむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 正月を二十度に設定せし子の家より 帰ればわが家の寒しとも寒し 彼女のこと包み隠さず話す孫の 優しき笑顔も逞しく見ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 蓑虫は錦木を好むかこの秋も 枝に幾つも下がりて揺るる 何処より飛び来しならんオレンジ色の パラグライダーわが上を行く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 囲炉裏辺に新米の五平餅焼き呉れし 亡き母想ひ焼きたてを買ふ 戌年より始めし木目込人形も 来年の酉にて遂に十二支揃ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 運動会にわが出番待つ一時を 左上欠けし部分日食を観る 展望台より下るリフトに白樺の 落葉舞ひ来てわが頬を打つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 岡麓の詠みし湧井の傍らの 紫式部に雨降りしきる 岡麓の書なると聞きし酒の銘 「大雪渓」の看板目立つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 病院もバソコンとなりわが医師も キー叩きつつ問診をなす 洗濯の完了ブザーの鳴るを聞き 盥の前の母を偲びぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 老いへの備へ出来ざりし吾が長生し 備へゐし娘は若く身罷る 逝きし娘の庭より移せし杜鵑草 在りし日のごと清らかに咲く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 申年の申月申日は八月九日 娘は下着を持ち来て呉れぬ 四十代にて老後に備へると言ひゐし娘 老後を待たずに逝きてしまひぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ティースプーン一杯分のこの蜂蜜 一匹の蜂が一生かかりしものぞ かって吾も母に贈りしを思ひつつ 申年にと娘に下着を貰ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 酸醬の赤き袋に雫して 台風の雨もことなく過ぎぬ 朝々にヨーグルトにかける一匙の 蜂蜜尊し粗末にできず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 逝きし娘の面影残る孫の土産 白桃の香り部屋に漂ふ わが庭のラベンダーを干し匂袋 作らむと今宵小袋を縫ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 夏至過ぎて昨日より十分早く沈む 日を思いつつ畑仕事にかかる トンネルを抜ける電車の音高し 明日は恐らく雨となるらむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ナウマンゾウの生育時代の御池山 隕石クレーターにロマンを覚ゆ 遠山郷の名産と聞く馬鈴薯は 急斜面の畑に掘られるを待つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 日本のチロルと言はれる「下栗の里」 屋根にタイヤや石をのせあり 日本にて初めて確認の御池山隕石 クレーターとぞ急斜面見下ろす

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 高遠の城址を埋むる夜桜に 脱サラをして励む桜守を思ふ 幼き日健康優良児に表彰されし 娘も癌には勝てず逝きたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 天麩羅に初めて味はふ春蘭の 花ほの苦く珍しき味 国会の議場にて携帯のゲームをする 議員に怒り込み上げてくる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 身のめぐり整へ置かむと思ふのみに 過ぎゆく日々の早しとも早し 在りし日に夫の植ゑたる春蘭の花 てんぷらにせむと詫びつつ摘みぬ