2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 福島より飯田へ逃げ来し人等 吾等の五平餅を美味しと頬張る プライバシーなき避難所に助け合ふ 人等の姿尊く思ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 踏場なき瓦礫の山より親が子を 子が親をさがす姿よ哀し 遠き地のことと思ひしに店頭に トイレットペーパーなしただ驚きぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 四十路に老後に備へる言ひ居し娘 五十半ばに逝きてしまひぬ 満開の桜の花を愛でつつも 被害者思ひ蟠るもの

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 観測史上最大とふ大地震 東日本を襲ひ飯田もゆれる 夕方になりて漸く通じたる 子の声に安堵し少し落ち着く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 病む友の笑顔が見られるうちにとて 夫君は「農娘」を出版されたり 病む友が玄関を出れば鳴ると言ふ 器具つけ夫なる君は働く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 久々に逢ひに行くから「千の風」に ならず娘よ墓に居てくれ もうと思ふかまだと思ふか生き方に 差のつく八十五才の誕生日

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 「老いては子に従へ」と言ふ良き訓 守りて吾の心定まる 我儘を許してくれと八十五迄 気ままな独り暮しを楽しみて来ぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新幹線南アルートの決定に 飯田の町に祝のポスター 現代の魔法の調理器とふシリコンスチーマー 作りし温野菜旨しともうまし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 風無くて初冬の光澄む畑に 土盛り上げし豌豆間引く 逝きし娘の庭より移しし杜鵑草 盛り咲けるに時雨降りつぐ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 遠き日に覚えし歴代天皇の名 今もすらすら暗んじ得るも 年々に吾より若き友等逝き 賀状の数の減りてゆくなり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 来年も健やかに生くるを信じつつ 合服を仕舞ひ冬服を出す 岐阜蝶の飾りつくこの外灯の 下に待ち呉れし友の幻

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 良く成りて食べしゴーヤーの柵を崩す 蔓もはっぱもしるく匂ひぬ 神無月下旬と言ふに十センチの 雪に驚く斑尾に来て

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 猛暑続き一日も早き涼しさを 願ひ居りしに俄かに寒し 風吹かず慈雨となりたる台風を 喜び今日は大根を蒔く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 逢ひたき人思へば大方世に存さず 面影を偲ぶのみとなりたり 大根を間引きつつ聞く虫の音に 後幾年畑作を成し得るや想ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 わが庭の山椒に生れし揚羽蝶 今日もきたりて廻りを遊ぶ 脇芽さし苗を作りしフルーツトマト 成長良くて赤く熟れ来ぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 己が幸を人の物差しで計るなと 兄の言ひしが心に残る 種にせむと取り残し置く豌豆を 山鳩の番今朝も啄む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 幻の花とふ青い芥子の花 見たしと思ひ居て今日叶ひたり 青い芥子見むと上り行く狭き道 車窓に青葉の時折りすれ合ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 梅雨の雨に百余り咲く額紫陽花 其処のみ暮れず夕べ明るし 新しく土竜の上げし土踏みて 蜀黍の根本に土よせをなす

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 手作りの布の草履は素足に優し 好みて日々に厨にはきぬ ビール工場に人影のなく機械のみ 動きて次々に箱に詰めらる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 萌え立ちし夕菅の株ほしげなく 友掘り呉れぬ花の待たるる 田の土手を忽ち刈りゆく草刈機 たんぽぽの絮毛しきりに飛びゆく

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き夫や子等の通ひし駅への近道 舗装せぬ土の感触の良し 苦土石灰撒きて起こしし黒土より 冬眠の蛙出でて動かず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 アカシヤの咲き初めし谷明るくて 天麩羅にせむ一枝をもらふ 答へなき答へを求め夫の遺影に 向ひて居れば心安らぐ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き母が吾等の着物縫ひ呉れし 鯨尺今も艶良く残る 和紙を折り友等と作りし内裏雛 表情異なりどれも愛らし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 一冬を軒下に置きし青葱の 細りし枯葉夕風に鳴る 幻想的な白煙を残し山崎さん乗る シャトルは空へ吸ひ込まれゆく

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 北海道の土産に貰ひしラベンダーの 枕寝返る床に香りぬ 亡き父が体弱き吾に鶏の骨 叩き呉れし団子を忘れず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 広告紙巻きて編みたる花籠に 紅絹に作りし薔薇を飾りぬ 長野原の江戸初期よりの伝統行事 お日待ちのむすび今年も届く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ベランダの屋根よりずれて見えし雪 ドスンドスンと間をおきて落つ 欠席の友に歌稿を持ち行く道 どんどに焼けし笹の葉散りぼふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 夜なべとふ言葉懐かし囲炉裏辺に 物縫ふ母の姿の浮かぶ 軒下のつらら溶けつつ節分の 温き日差しに煌めき止まず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ソユーズは今し宇宙ステーションにドッキング 成功の映像喜びて見る 母に吾がなしし如くに娘が 吾の沢庵に切れ目入れてくるるも

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 庭隅のコンテルクラマゴケのもみぢ葉に 初雪かかり美しく映ゆ オレンジ色の炎を上げて野口さん 乗るソユーズは宇宙に飛び立つ