2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 五輪カラーにライトアップされし善光寺 幻想的に夜空に浮かぶ 味噌汁に浮かせし蕗の薹香り立ち 好みし母を想ひ味はふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 年々に読めても書けぬ文字増せり 葉書書くにも辞書手ばなせず グリセリンと尿素に手作りの化粧水 手足にぬりて肌荒れ知らず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 年々に花を楽しみし隣り家の 梅畑の大木忽ち伐られぬ 面倒で札ばかり出し溜まりたる 小銭を詫びつつ今日は使ひぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 拙なくも只管書きし百人一首 表装をして床に飾りぬ 夫子等と揃ひて迎へし正月遙けく 遺影と共に娘の家に過ごす

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 福祉の世に感謝をしつつ一人暮しの 緊急通報装置つけてもらひぬ 緊急ボタン何時か押さねばならぬ時 来るやも知れず説明を聞く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 御岳の頂上の霧晴れ渡り 飛行機雲の近々に見ゆ 西部地震の見舞に来し日の惨状を 偲びつつ紅葉の王滝村を巡る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 喜寿の祝に無料撮影の案内貰ひ 友と装ひ写真館に来ぬ 若しかしたら葬式用の遺影になるや 寂しきこと思ひカメラに向ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 傍聴せしあの日のごときヤジもなく 再選後の県議会様変りせし 木洩れ日に宝石のごとく耀える 玉虫の亡骸拾ひて飾る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 一日の処理能力は九十三トン ダイオキシンは大丈夫なるや 来春の県議選をば意識せし 心みえ見えの県議会今靜なり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 最新のガス化溶融炉竜丘に建ち 火入れ式なれど煙穴に煙なし ダイオキシン排出量は限りなく ゼロとふ焼却炉の煙は見えず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 病院の待合室での今日の話題 介護保険値上げと年金の減額 代表されし今年の漢字は「帰」となりぬ 拉致されし人等の帰国を願ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ピンクの毛糸に作りし子犬に目と鼻を つければ愛らし尾をふるごとし 返り咲く赤き芝桜忽ち埋めつくし 思ひ見ぬ早き初雪の降る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 来年の干支の未に「金の三ツ俵」 背負はせて木目込人形成りぬ 種多きことも味はひの一つにて 久々に熟れし通草を頬張る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 午の木目込人形を仕舞ひ未を飾る 一年の巡りまことに速し 当座漬けは初霜のふりし塩加減と 母の教へ思ひ蕪菜を漬けぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 電子辞書の拡大機能まこと良し 眼鏡かけずにたしかに見ゆる アフガンの子等の描きし絵はなべて 黒や灰色の悲しみの色

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 睦ましく肩を寄せ合ふ道祖神 夕映えに頬は紅さしてゐる 独り居のままごとめきし食事作り 栄養のバランス常に気遣ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 十一桁の住民票コード受取りぬ 目的外使用のなきを願ひつつ 庭の蝉も夫を迎へて鳴きくるるか 迎へ火たきつつ澄みし声きく

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 傷一つ受けず帰還をしたる兄 なぜか戦地のことは話さざりき 陸軍大尉として戦ひし日々が亡き兄の 人生の花どきなりしかと思ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 梅雨晴れの庭に亡き夫好みたる ドイツアザミの色濃く咲けり 減塩にて漬けし大梅の土用干し 乾物ネットに香りを放つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 耐熱皿に並べし浅蜊のワインむし 一つ又一つ音立て口開く アララギの土屋文明追悼号は 吾が初入会の記念品なり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 マイナスイオンが空気を綺麗にすると聞く サンセベリアを居間に飾りぬ 変革を求めて選ばれし田中知事 不信任案可決となりぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 黒川の流るる瀬音打ち消して えぞはる蝉のかしましく鳴く 戦場にて弾丸に彫りしと君呉れし 印鑑いまだ使ふことなし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 手間も出ぬ梅の安値で採らずとふ ぽたりぽたりと熟れし実の落つ 梅畑に散りしく熟れし黄なる 実の酢甘き香り辺りに漂ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 移り来て他所者と言はれし四十年前 今よそ者は三百世帯 二年目を迎へし介護保険の実情を 聞きつつ老いる侘しさつのる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 大平の主住まざる家の庭 十二単の色冴えて咲く 古葉刈りし南天の新芽出揃ひて 夕べの風に揺れ止まぬなり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 撓むほど極まり咲きしミツバツツジ ほのかに揺らし風の過ぎゆく 木曽見茶屋の峠に立てば茂吉詠みし あららぎ村の霞みて見ゆる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 中学生等三位一体の人形使ひ 黒田人形の生き生きと見ゆ 亡き母のなししごとくに酸味帯びし 漬菜をいため味をともしむ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 石鉢の苔むす中に株殖えし 岩桧葉の巻葉雨にほぐるる しばらくを我儘許せと子等に言ひ 一人暮らしの心を決める

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 店頭に山と積まれし紙襁褓 雨の日は気にせし亡き母を想ふ 年老いし木地師の廻すロクロより 飛び散る木屑香りを放つ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 自家用の野菜を作る気力まだ あるを喜び苦土石灰をまく 大正琴の友とり呉れし録音テープ 飼犬の声もリズムになるを聞く