2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 背中少し曲がれるわが影したがへて 久々に農道への歩みを伸ばす 酒船石見むと石段七十五段 散りしく竹の葉踏みつつ登る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 自分勝手で思ひやりのなき人の方が 体に良しとぞ苦笑して聞く 新聞の活字が今日より十四段 十二字となりて老眼鏡要らず

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ビニール袋にとり来し蝗ピチピチと 車の中に音立て跳ねる 脱サラの君の拓きし羊牧場 百頭の群れに秋日あまねし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 茜の空川面にうつす天竜川 事一つ終へし安らぎに見る 母の味思ひ出しつつとりて来し 蝗佃煮にすればまこと香ばし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 襲ひくるやぶ蚊払ひつつ酒船石を 遠つ世の人等偲びつつ巡る アララギの崩壊の後まぼろしと なりしアラカシを藤原京跡に見る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き兄が色黒で足の長き吾に つけたる渾名は足長蜂なり 初めて仰ぐ天の香久山山と言ふより 台地のごとく低く平らに

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 久々に来たりし古里の小学校 掲げる額の校歌を唄ふ 君の歌集「合歓咲く峡」の背文字は 知至先生の懐しき遺筆

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 農家の人等砕きし西瓜広大なる 畑に赤き縞模様に見ゆ 蜀黍の粒の列すべて偶数と 初めて知りて数へ確かむ

大国主命

[童話]大国主命 大国主命の試練 16 そんなある日。 稲羽(いなば)の八上比売が、大国主命を訪ねてきま した。 八上比売は、何か月かして、大国主命のこどもを生み ました。 しかし、すでに須勢理比売という正妻がいたので、八 上比売はそのこどもを木の…

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 年々に抜き捨てて絶ゆることのなき 十薬の花ひそやかに咲く 季ならぬ雹にあひたる農家の人 収穫前の西瓜を砕く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ヒムロやめ新アララギのみに学ばむと 心決まれば己励ます 設備良き介護施設を見学し 老ゆる侘しさ心に沁みぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 江戸末期より百四十年ぶりとふ皆既月食 今宵古里の山の空に見る 梅雨に入れば籠りてちぎり絵に励まむと 爪を伸ばして和紙を揃へぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 古里の神の峰を照らし居し満月の 刻々とかげり見えなくなりぬ 今世紀終に仰ぐ皆既日食か 南アルプスの空にかけ初めたり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 ひたすらに蚕飼にいそしみし父母思ひ 桑喰む音の蚕しぐれ聞く 月明かりに仄白く見ゆるカモミール 摘みて今宵の風呂に浮かしぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 亡き兄が吾につけたる渾名なる 足長蜂に今年も出会ふ この貝殻同じ模様のなしと聞く 浅蜊はふつふつと口開け匂ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 種子散りて生えたる稚きをだまきを 心使ひて庭の草とる 痴呆の妻を残して死ねぬと優しき君は 四種類の薬のみつつ看とる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 リマ市に生れ理麻と名付けし孫娘 優しく育ち成人式を迎ふ 干しえびに茶葉胡麻海苔を粉にせし 手作りふりかけ旨しともうまし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 何にかく人の心の荒び行くか 児童虐待のニュース続くも わが一度もつけしことなきイヤリング 友の福耳に輝きゆらぐ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 吾と話せば心明るくなると言ふ 夫亡き友とマレットをする フィリピンより送り返されし芥の山 日本国民として誠に恥ずかし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 松喰虫にやられし庭松聴診器 当てても生ける鼓動の音なし ポストの中に山姥ひとり棲み居ると 詠みし人の歌思ひつつ入れる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新アララギの表紙絵の慈姑わがまねて 和紙をちぎりて絵手紙にだす 夫子等と住みし冬至の日のごとく 南瓜を食べて柚子湯に入る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 冬空の雲は昨日に変はるなく 吾が古里の山の上に凝.る 姿見も手鏡も磨き二千年を 迎へる大掃除漸く終はる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 在りし日に椿の花の一輪を 夫彫りし俎板冬日に干しぬ 育つ時も育てるときも考へても 見ざりし児童虐待法案虚し

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 年金の頼めなき世を嘆きつつ 子等は老後に備へ居ると言ふ 玄関にとり込みし鉢のハイビスカス 葉裏に蟷螂動くともなし

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 「仰臥漫録」死の半月前迄執筆せし 部屋の窓辺に庭眺め立つ 信州の御馳走と思ふ蜂の子飯 都会育ちの嫁は毛嫌ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 アメリカへ九千三百発放ちしとふ 吾等和紙貼り重ねし風船爆弾 丸太でなく切り口を詠めと導き給ひし 知至先生思ひ添削をする

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 病み臥しし子規のこよなく愛しみし 庭に萩咲き柿の実色づく 菠薐草を蒔き終へ見上ぐる西空の 茜に染むる夏雲秋雲

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 売れ残る宅地一面にはびこりし 昼顔の花夏の日のもと 米十キロ千九百五円と記しある 四十一年度の家計簿ひもとく

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 丹精せし蜀黍の花粉風に舞ふ 下に深々と土寄せをする 青草を背にのせ田の草とりて居し 亡き父想ひ畔に立ちをり

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 迎へ呉るる人なき家に鍵を開け 入るにも馴れてわが独り住む 俄雨過ぎて真夏の日の差せば 一人静の青き実光れり