2019-01-01から1年間の記事一覧

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 27 「私は、殿様の身近にいたので、殿様の良い 所も悪い所も知っております。領民や家臣た ちから、殿様のことを聞くたびに、なぜ領民 のことを思いやることができないのだろうと、 残念に思いました。もう少し領民のこと…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 26 「犬坊。おまえは、わしの小姓になったことを、 後悔しているのか」 「いいえ。後悔しておりません。殿様にも、奥 がたのお万さまにも、かわいがっていただきま したから。若君の長五郎さまとも仲良しになれ ましたし…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 25 「犬坊。三年前、おまえに会ったのは、この小 屋の近くだったのぅ」 「殿様、よくおぼえていますね。あれは、殿様 が鹿狩りをしていた時でしたね」 「おまえは、わしが追っていた鹿を、たった一 本の矢で射止めた。す…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 24 「全員無事だといいですね。さあ、殿様。追手 がくるといけないので、少しでも安全な場所へ 逃げましょう」 犬坊が、盛永をせかしました。 二人は、下条の追手を逃れ、山の奥へ奥へと逃 げて行きました。 「殿様。あそ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 23 盛永は、目の前で燃えている城をみて、心の 中でつぶやきました。 「殿様、どうかなさったのですか」 犬坊が心配して聞きました。 「犬坊。戦とは、むなしいものじゃのう」 「ほんとにむなしいですね」 燃えている城を…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 22 「あの城は、領民たちの年貢で建てた城。その 城が、燃えている。城は、わしのものだとばか り思っていた。でも、よく考えてみれば、城は 領民たちのものだったのだ。あの城は、領民た ち一人一人の汗の結晶だったのだ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 21 後から、下条の兵士たちが追ってきます。 二人をめがけ、矢や石がとんできます。 「殿様。いつも鹿狩りに行くあの山へ逃げま しょう。そうすれば、下条の追手から逃げ切 ることができます」 盛永と犬坊は、いつも鹿狩…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 20 中には、追手につかまり、やりで殺された人 もいます。 「さあ、犬坊。城から脱出するぞ」 盛永が、犬坊にいいました。 二人は、下条の兵士たちにみつからないよう に、こっそり城を出ました。 でも、兵士たちにみつか…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 19 家臣たちは、城を逃げ出す準備を始めました。 そして、数人ずつ、めだたないように城をぬ けだしました。 ところが、すぐ下条の兵士たちにみつかって しまいました。 「家臣たちが、城を逃げだしたぞ。早くつか まえろ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 18 消しても、消しても、次から次へと火の手が あがります。 城の中は、火の海でした。 城内には、煙がもうもうとたちこめています。 家臣たちは、戦うすべもなく、安全な場所を さがし、城内をあちこち逃げまわりました…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 17 百本、いや五百本・・・数えきれないほどの たくさんの矢でした。 「どすん」 城の壁にむかって、大きな石がなげつけられ ました。 あちこちから、小石もとんできます。 鉄砲の弾もとんできました。 「殿様。城に火が…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 16 権現城では、戦の準備もととのわないまま、 下条との戦が始まりました。 下条の軍勢は、数百。 こちらは、城内にいた数十人のみ。 急なことゆえ、かけつけてくれる援軍もあり ません。 権現城は、たちまち下条の軍勢に…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 15 「さあ、お万。この野良着に着がえ、急い で城をでなさい」 盛永が、お万をせかしました。 お万と長五郎は、うすよごれた野良着を着 て、家来とともに城を出ました。 五分後。 「ぱか、ぱかっ、ぱか」 下条軍のひずめ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 14 「お万。すぐ実家にもどるのじゃ。関家のた めにも、長五郎をしっかり守るのじゃ。お万、 長五郎のこと、頼んだぞ」 盛永がいいました。 お万は、盛永のいいつけで、浪合の実家に戻 ることにしました。 「盛永さま。無…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 13 「みなのもの、落ち着けー。落ち着くのじゃ。 そして、みんなで城を守るのじゃ。頼んだぞ」 盛永が、家臣たちにいいました。 家臣たちは、いそいで戦の準備をしました。 しかし、余りにも急なことで、盛永も家臣た ち…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 12 「戦国の世だから、どんなことがおこるかわ からない」 盛永は、そう覚悟していました。 しかし、今夜の下条の急襲は、予想外でした。 「ここ数年、下条とはいい関係が続いていた のに。なぜだ」 盛永には、下条時氏が…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 11 月見の宴がたけなわになった頃。 「殿様。殿様―」 天守閣でみはりをしていた人が、宴会場へと びこんできました。 「殿様。大変でございます」 「何ごとじゃ」 「敵が・・・敵がせめてきました」 「何、敵がせめてきた…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 10 奥がたのお万も、みよりのない犬坊を、弟 のようにかわいがっています。 犬坊も、お万が大好きでした。 両親のいない犬坊は、盛永を父のようにお 万を母のように思っていたのでしょうか。 若君の長五郎も、「兄ちゃん…

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[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 9 犬坊には、両親がいません。 遠縁の農家にひきとられ大きくなりました。 犬坊は、城一番のやりと弓の名人。 三年前、城にやってきました。 城主の盛永に気にいられ、盛永の身のまわ りの世話をしています。 「犬坊」 「…

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[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 8 「犬坊」 「犬坊はどこじゃ」 盛永は、小姓の犬坊をよびました。 「殿様。何かご用でしょうか」 「犬坊、ここへおすわり」 盛永は、自分の横に、犬坊を座らせました。 「犬坊は、いいのぅ。殿様に気にいられて。 ほんと…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 7 そんな盛永でしたが、奥がたのお万とこども の長五郎には、やさしく接していました。 そして、もう一人、小姓の犬坊にも。 「どちらがほんとの盛永さまなのかしら。城 主だったら、まず領民のことを考えてほしい」 お万…

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[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 6 「あの山には近づくな。殿様が鹿狩りをして いるから」 領民たちは、こどもたちにいいきかせました。 盛永は、何かに夢中になると、前後のみさか いがなくなってしまう人だったのでしょうか。 奥がたは、お万。 心のやさ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 5 盛永は、重臣たちの忠告をききません。 家臣の中にも、おごりたかぶっている盛永 に、不満をもっているものが大勢いました。 中には、吉岡城の下条時氏に通じていたも のもいたようです。 盛永は、鹿狩りが大好きでした…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 4 盛永は、仕事をなまけているものには、容赦 なく罰をあたえました。 「城なんか、一つあればいい。なぜ三つも城 を作るのじゃ。そんな金があったら、年貢を 安くしてほしい」 「石を運ぶ仕事は、もうたくさんじゃ」 「殿…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 3 しかし、その期待は、みごとにうらぎられま した。 盛永は、先代の城主以上に、領民たちから厳 しく年貢をとりたてました。 「こんなに年貢が高くては、暮らしていけない」 「嫁とりにまで、税をかけるなんて。これで は…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 2 関と隣の城・下条との対立は激しく、数十年に わたり、何度も戦がくりかえされました。 そして、大下条周辺の十八ケ村が、権現城の領 地になりました。 しかし、高地が多く、農作物の収穫はあまり期 待できません。 城が…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 1 信州の最南端に、「権現城」という城がありま した。 関氏の城で、「和知野城」ともよばれています。 今からおよそ五百七十年前。 文安五年(1448年)。 関の一族は、戦乱を逃れ、伊勢から信州の新野 に移ってきまし…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 31 その後。 青い獅子頭を寺の外へだすと、なぜかはげ しい雷雨になりました。 そのため、日照りで困っている時には、そ の獅子頭を祭り、雨乞いをするそうです。 男が彫った獅子頭は、「雨乞いの青獅子」と よばれ、…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 30 和尚は、男の形見の獅子頭を持って、寺へ 帰りました。 そして、本堂へ獅子頭を供えました。 次の日。 和尚は、檀家の人と一緒に、不動滝へ男の 遺体をさがしに行きました。 滝つぼから男のなきがらをひきあげると…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 29 だから、わしは二度と外へでることはでき ないとあきらめておったのじゃ。でも、お まえが気づいてくれた。どんなにうれしか ったか。 仏師よ、おまえはすばらしい仏師じゃ。わ しは、おまえの志をついで、伊那谷…