2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 戦争はしてはならぬと口々に 三ケ根山の慰霊碑を巡る 三ケ根山にエンジンもプロペラも錆びつきて 靜もる零戦に心痛みぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 花水木の花盛りなるアップルロード 吹き来る風は甘き香運ぶ 恙無く今日も過ごさむ日課の一つ 薄めしバナナ酒楽しみて飲む

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 飯綱山に種蒔くぢいさんの雪形の 見え来て信濃も春を迎ふる 奈良井宿の店先に木曽五平 頬張れば何故かゆったり心落ち着く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 酸味帯びし漬菜を亡き母のなししごと 油で炒め味をともしむ 蟷螂の卵のつきしシャコバサボテン 葉先整へ窓辺に置きぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 訪れる度にチワワが喜びて 迎へ呉るるはセラピーか吾の お巡りさんも襲撃怖しと駐在所に 防犯ブザー置く世となりぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 何時の日か世話になるらむ紙襁褓 その日思へば侘しくなりぬ 国技なるにモンゴル相撲になり来しを 寂しみて観る千秋楽を

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 十年間呑み続け来し血圧の薬 三千六百余粒思へば恐ろし 老いの集ひに失禁パッドや紙襁褓 商ふ人は下の清潔を説く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 五円玉を色紙に綴ぢて吾が好む 「和」の文字書けど光失せ来ぬ 認知症の予防になると教へられ 左右に腰ふりグーパーをする

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 寒中の雨に蹲踞の氷とけ ひからびし苔甦り来ぬ 新年を迎へて願ひ二つ持つ 逆縁なきこと吾が息災のこと

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 手首の力とみに弱りて大中小の 瓶の蓋開けの器具を購ふ 雨止みて朝日に息立ち白く煙る 畑に黒き野良猫の見ゆ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 新年の日記に向かひ八十年の 吾が来し方と行く末を想う 七十年経たるはらから四人の写真 色褪せ残るは二人となりぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 胸去らぬ一つを今日も持て余し 声高らかに追儺の豆まく 雲の上に吾を見守り呉るるらむ 亡き父母夫を思ひて仰ぎぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 この年を表す漢字は{愛}となる 心温まる良き響きあり 凍みゆるみし今朝は体も心も軽く 新しきエプロンにて掃除にかかる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 十二支の木目込人形作り終へ 戌より始む押絵の人形 結婚後の生活設計を話し呉るる 孫に幸あれと祈りつつ聞く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 雪消えて緑つやます菠薐草 笊一杯に葉のみ摘み来ぬ 亡き母を手伝ひて作りし繭玉を 小正月来れば懐しく思ふ

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[母の短歌]追憶の風 新しき介護保険証届きたり 一病息災に使ふなく生きたし 温暖化防止に始まりしウォームビズ 着こなしのセンスに差のつくを見る

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[母の短歌]追憶の風 十月になりても夏日の続く庭 満天星ははや色づき始めぬ 初めての薬害体験身に沁みて 炎症を抑へむ軟膏を塗る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 先生のみ墓辺に立てば慈光寺の 供養の鐘のやさしく聞こゆ 逝きし娘の許へ届けと慈光寺の 供養の鐘を慎みて撞く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 山下水湧きて流るるせせらぎを 聞きつつ先生の新墾へ登る 再びは登ること無けむ新墾の 道下り来てズボンの草の実をとる

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 十月の青空澄みてソメイヨシノ 不時現象に優しく咲きをり 肥かつぎ土屋先生登られし 新墾を見むと山道登る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 この度の衆院選ほど関心持ちし 選挙なかりし投票をすます 安曇野の橋の道祖神手をつなぐあり 酒をつぐ在り心和み渡る

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[母の短歌]追憶の風 上出来に仕上りし梅干しを楽しみて 朝茶にかかさず日々を過ごしぬ 夫や娘も黄泉の国より名月を 眺め居るらむ外に出て見る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 癌保険も生命保険も掛け置きて 定めのごとくわが娘逝きたり 抗癌剤に抜けし娘の黒髪を 粘着テープに取るは辛かりき

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 逝きし娘の好みし夏水仙二十本 花束のごとく庭に明るし 保険をかけ夫や子供に経済的 負担をかけず逝きし娘を思ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 「明日にでも宇宙へ戻りたい」と野口さん 満ち足りし笑顔に無事帰還せり 紫淡く鉢にあふれ咲くプリエッタ 夕べの風に揺れつつ香る

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 久々に兄の形見の聴診器に リズム正しき心音を聞く 安全神話死語となりたる今の世は 児童の鞄に安全ベル付く

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 認知症と呼び名変われど何一つ 変らぬ看取りの苦しみを聞く 親展と書かれし封書に値上げとなりし 介護保険料天引きの通知

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 電気釜に初めて真空調理せし ローストビーフの肉柔らかし 雨の中を飛び交ふ燕は二重瞼持つと 探鳥会に初めて知りぬ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 北海道の土産に貰ひしラベンダーの 枕は深き眠りを誘ふ 地味好きの吾も世に添ひ年々に 派手になりつつ八十を迎ふ

母の短歌

[母の短歌]追憶の風 付け呉れし緊急通報ボタン 押すこともなく過ぎ幸とし思ふ 年々にこぼれ種より育ち咲く 松葉牡丹の逞しく見ゆ