2016-01-01から1年間の記事一覧

竜神になった三郎

竜神になった三郎 28 十年が過ぎました。 ある日、三郎は神様にお願いしま した。 「ひとめで良いから、妻にあわせ ていただきたい」と。 「おまえがこの国へきてから、十 年がすぎた。いいだろう。おまえ の願いを、かなえてあげよう。こ の道をまっすぐ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 27 「三郎はな、町で用たしをしてくる といっとった。だから、もうすぐ帰 ってくるじゃろ。心配ないさ」 兄たちは、平然としていいました。 しかし、三郎は帰ってきません。 一日たち、二日たち、三日たっても、 三郎は帰ってきませんで…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 26 しかし、三郎は毎日妻のことばか り考えていました。 「早く家に帰りたい。おっかあは どんなに心配しているだろう」 そう思うと、三郎はいてもたって もいられません。 「どうか妻に会わせてください」 三郎は、何度も神様にお願いし…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 25 地の国では、今までみたこともな い美しい花が、たくさん咲いてい ました。 その花のまわりを、赤・黄・紫・白 など、たくさんのちょうが、ひらひ らと舞っています。 木の枝では、色あざやかな小鳥が、 チィチィと楽しそうにさえずっ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 24 「そうじゃ。人を少しも疑うこと を知らないおまえを、この国の王 子にしてあげよう。じつは王様に は、あとつぎがなくて、困ってい た所じゃ。これからおまえはこの 国でのんびりと暮らすがよい」 そういうと、神様はどこかへ行っ て…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 23 「私は幼い時から、太郎兄さんにも 次郎兄さんにも、かわいがってもら いました。兄たちがなぜあんなひど いことをしたのか、私にはわかりま せん。 兄たちにつき落とされた時は、本当 にびっくりしました。しかし・・・、 私は兄たち…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 22 どのくらいの時間がすぎたのでしょ うか。 「気分はどうじゃ。気がついたかな」 その声で、三郎ははっと目がさめま した。 三郎は、広い部屋の中で寝ていました。 そばには、長いひげのおじいさんが 立っています。 「わしは地の国の…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 21 「おっかあ、助けてくれー。おっ かあ、おれはまだ死にたくなーい」 「お願いだー。誰か助けてくれー」 三郎は、ひっしでさけびました。 しかし、広い湖には誰もいません。 泳ぎのうまい三郎でしたが、落ち た所が強くうずをまいてい…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 20 「太郎兄さーん、助けてぇ」 「次郎兄さーん、助けてくれー」 三郎は、ひっしで兄たちに助け を求めました。 しかし・・・。 兄たちはさっさと舟をこぎ、三郎を みすてていってしまいます。 「なぜだ」 あんなにかわいがってくれた兄…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 19 三郎はひっしで舟をこいできたの で、うでが疲れていました。 「あーあ」 三郎がせのびをしようとたちあが った時、兄たちは「それ、今だ」と、 目くばせしました。 「えいっ」 兄たちは、三郎を後から力いっぱい おしました。 「あっ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 18 湖はようやく氷がとけはじめたば かりでした。 春の日をあび、湖はきらっきらっ と輝いています。 三郎は、久しぶりの魚つりを、楽 しみにしています。 「三郎、もう少しむこうまでいこう」 太郎がいいました。 気のいい三郎は、ひっ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 17 魔の日曜日がやってきました。 「おっかあ、行ってくるぞ。大きな 魚をつってくるから、楽しみにして 待っていておくれ」 そういって、三郎は暗いうちに家を でていきました。 「三郎さん、大きな魚をたくさんつ ってきてね。気をつけ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 16 次の日曜日に、三郎を魚つりにさ そいだし、諏訪湖の深いふちに突 き落とそうと、二人は決めました。 そんな悪だくみがあるとは知らず、 三郎は妻と仲良く暮らしています。 三郎は妻のことを、「おっかあ」と 呼んでいます。 美しい働…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 15 そんなある日。 「諏訪湖の真ん中あたりに、うず をまいている深い場所があると、年 寄りから聞いたことがある。そこは 底なしのふちになっているらしい。 そうだ、三郎をそのうずの中へつき おとしてしまおう。そうすれば、い くら泳…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 14 「次郎や、たてしな山の奥に、人 穴があるそうだ。その穴へ落ちる と、二度と戻ってこられないそう だ。その穴へ、三郎を突き落とし てしまおうか」 「兄さん、そんなことをしたら、 三郎がかわいそうだよ。三郎だっ て人穴のことは知…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 13 二人は、三郎がうらやましくてし かたがありません。 なんとかして、幸せいっぱいの三 郎を困らせてやろうと、二人は相 談しました。 人がうらやむほど、仲のよい兄弟 だったのに、どうしたのでしょうか。 「どうやったら、三郎をぎゃ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 12 「三郎さはいいのぅ。美人で、や さしくて、その上働き者の嫁をも らって。おらの息子も、あんな良 い嫁をもらってくれたら、どんな にうれしいだろう」 そういって、村の人々は、三郎の 嫁をほめました。 素敵な妻を迎えた三郎をみて…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 11 「三郎さん、ご苦労さま。疲れた でしょ」 仕事から帰ると、妻はやさしく三 郎を迎えてくれます。 三郎は妻の笑顔をみると、一日の 疲れがふきとぶような気がしました。 三郎の妻は、姿が美しいだけでな く、心のやさしい人でした。 …

竜神になった三郎

竜神になった三郎 10 三郎の心の中は、諏訪湖のほとり で会った美しい娘のことで、いっ ぱいだったのです。 その夜、三郎はなかなかねつくこ とができませんでした。 その後、二人は、諏訪湖のほとり で、何度か会いました。 そして、会うたびに「いっしょ…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 9 二人とも初めて会ったのに、いつ かどこかで会ったことがあるよう な、とてもなつかしい気がしました。 「一週間後、もう一度ここであおう」 そう約束して、二人は別れました。 その日、三郎は軽い足取りで、家に 帰りました。 何時間も…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 8 一方、娘の方も、「なんてりりしい かたかしら。こんな人の妻になれた ら、どんなにうれしいことか」と思っ たのです。 ひとめみた時から、二人とも忘れら れなくなってしまったのです。 「家はどこ?」 「この近くなの。ほら、あそこに…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 7 三郎が後をふりむくと、はっとする ほど美しい娘が立っていました。 真っ黒な長いかみ・色白な顔・赤い くちびる・澄んだひとみ・すらりと した体。 娘は、桃色の着物をきていました。 諏訪湖の精のような、美しい娘で した。 三郎は、…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 6 ななかまどの実が橙色になった、 秋のある日。 三郎は、遠くの町へ用たしにでか けました。 その町には、大きな美しい湖、諏 訪湖があります。 三郎は、久しぶりに諏訪湖によっ てみました。 魚でもとっているのでしょうか。 湖には、小…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 5 十数年が過ぎました。 大人になった兄たちは、それぞれ に妻をめとり、平凡に暮らしてい ます。 三郎も、ニ十四才になりました。 りりしい青年になった三郎は、村 の娘たちから「三郎さ、三郎さ」 と、したわれています。 「わし、三郎…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 4 「おっ、あけびだ。じゅくしていて うめえぞ」 太郎は、するすると木にのぼり、三 郎にあけびをとってくれます。 そして食べ方を教えてくれました。 「三郎―、でけえまつたけをみつけ たぞー。早くこっちへこーい」 太郎と次郎は、山の…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 3 春になると、三人はつれだって、 山へわらびやたらの芽などをとり に行きます。 「三郎や、これがわらびだ。ほら、 ここにもあそこにもあるぞ」 枯れ草の中に、わらびがかわいい 芽をだしています。 三郎は、夢中でわらびをとりました。…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 2 村の人々がいうように、三郎は大 人しい心のやさしいこどもでした。 兄たちは「三郎や、三郎や」とい って、三郎をかわいがってくれます。 三郎も、兄たちが大好きでした。 「あそこの兄弟は、ほんとに仲が いいのぅ」 「おらのとこは、…

竜神になった三郎

竜神になった三郎 1 たてしな山のふもとに、小さな村 がありました。 あっちをむいても、こっちをむい ても、山・やま・山。 さるやりす、かもしかや熊も住ん でいる、山深い村でした。 その村に、太郎・次郎・三郎という、 三人の男の子が、仲良く暮らして…