2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

笛の音よ、永久にひびけ

[童話]笛の音よ、永久にひびけ 笛の音よ、永久にひびけ 1 志賀高原の丘の上に、大きな“いたやかえで”の木 が立っています。 「あーあ、よく寝たのぅ。さて、ぼつぼつ目をさますと するか」 二百才になったかえでは、大きなあくびをしました。 そして、芽を…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 28 夏になると、女神さまたちはかきつばたに会いに、八 島の湿原にやってきます。 「かきつばたは本当に美しい少女だったけれど、花 になってもやっぱり美しいのね」 そういいながら、女神さまたちは…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 27 山彦は、かきつばたの花が咲く頃、八島の湿原へ かきつばたに会いに行きます。 そして、一日中かきつばたと一緒に過ごすのでした。かきつばたがなくなってから、ニ千年の月日がすぎ ました。 夏に…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 26 一年後。 山彦が、八島の湿原へ行ってみると、沼のほとりに みたことのない紫色の花が咲いていました。 花が咲いている場所は、初めてかきつばたに出会 った場所でした。 「かきつばたさんが、紫…

かきつばたになった小女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 25 かきつばたのおとうさんとおかあさんも、大切な娘と かわいい妹をなくし、がっくりしていました。 二人は、毎日霧が峰へ行き、かきつばたをさがして 歩きました。 「かきつばた、かきつばたー。ど…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 24 かきつばたがいなくなったことを知ったおばさまは、 かきつばたのことを心配しました。 「私が山彦のことを話さなければ、かきつばたは霧 が峰へ行くこともなかっただろうに・・・」 おばさまは、…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 23 「かきつばたさんはどこへ行ってしまったのだろう?」 びっくりした山彦は、「かきつばたさーん、かきつばた さーん」とさけびながら、広い高原をさがしまわりました。しかし、かきつばたはどこに…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 22 「山彦さん、おせじをいわないで」 「本当だよ。きみの顔は、なんともいえない優しい顔 だ。きみの心の優しさが、そのまま顔にでている」 「でも・・・今水面に顔をうつしてみたら、私はとてもみ …

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 21 「さっきまで、あんなにかわいくみえたのに・・・。この みにくい顔は何? 本当にこれが私の顔なの?」 かきつばたは、あまりのみにくさにおどろき、その場 にたちすくんでしまいました。 「かき…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 20 かきつばたは水辺に行き、自分の顔を水面にうつし ました。 すると、水面にはかわいい顔がうつっています。 「あら、ほんとうにかわいい顔」 かきつばたは、うっとりしながら、水面にうつった自分…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 19 「おらも会いたかった。でも、なかなか会えなかっ たね」 山彦も、かきつばたに会えてうれしそうでした。 「かきつばたさん、きみは本当に美しいしね」 「私が美しいだなんて。村に帰れば、みんな…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 18 そんなある日。 「今日こそ、山彦に会えますように」 かきつばたは祈るような気持で、山彦と初めて会 った沼のほとりで、山彦がやってくるのをじっと待 っていました。 すると・・・。 草原のむこ…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 17 「おばさま、私はだれにもいわないわ。もちろんお とうさまにも・・・」 おばさまは、若い頃の思い出をかきつばたに話し、 すっきりしたようでした。 そして、きすげの花をみたおばさまは、少し元…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 16 でも・・・今もそうだけれど、人間の男性と女神は、結 婚することは許されていなかったの。だから、私はそ の人と結婚することをあきらめたわ。でも・・・私はそ の人のことをどうしても忘れるこ…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 15 「おばさま、今日ね、霧が峰で山彦という少年に会 ったわ」 「えっ、山彦に?」 おばさまは、驚いたような顔をしました。 「おばさまは、山彦のことを知っているの?」 「ええ、よく知っています…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 14 「じゃあ、みんなが心配しているかもしれないよ。早 く帰ったほうがいいよ」 「そうね、早く帰って、おばさまにきすげの花をみて もらうわ」 「おばさまが一日も早く元気になると良いね」 山彦は…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 13 二人とも、今日初めて会ったのに、いつかどこかで 会ったことがあるような、とてもなつかしい気がしま した。 「かきつばたさん、霧が峰へ何しにきたの?」 「病気のおばさまに、きすげの花をプレ…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 12 山彦のことは、女神さまたちの間でも、うわさにな っていました。 「霧が峰へ行くと、えものを追って走っている、足 の速い少年がいる。色は黒いけれど、とてもりりし い少年だ」と。 かきつばた…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 11 「きみの名前は、なんていうの?」 「かきつばたといいます」 「えっ、かきつばた?」 少年は、驚いたような顔をしました。 「美しい少女だと評判の、あのかきつばたさんなの? おらは、かきつば…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 10 そして、広い草原のむこうから、こちらにむかって、 少年が走ってくるのがみえました。 少年の姿は、草原を走っている小鹿のように見え ました。 少年の姿をみた時、かきつばたはほっとしました。…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 9 「おとうさま、ごめんなさい。私はおとうさまとの約束 をやぶり、一人で霧が峰へきました。病気のおばさ まに、きすげの花をプレゼントしようと思ったのです。 おとうさま、どうか霧が早く晴れるよ…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 8 「おばさまは、この草原を、大好きな人と一緒に歩い たのね」 かきつばたは、二人の姿を思いうかべながら、夢中 できすげの花をつみました。 ところが・・・。 はっと気がつくと、あたりは霧で真っ…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 7 おばさまの話を聞いたかきつばたは、なんとかして おばさまの最後の願いをかなえてあげたいと思いま した。 しかし、女神さまたちは、一人で遠くへでかけること を、神様からかたく禁じられていまし…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 6 かきつばたは、黄橙色のきすげの花をおもいうか べながらいいました。 「かきつばた、きすげの花はね、私が少女だった ころ、大好きだった人から、初めてもらった花なの。 その人は、ふもとの村に住…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 5 でも、おばさまは独身でした。 「すてきなおばさまなのに、なぜ結婚しないのだろう」 かきつばたは、ふしぎに思っていました。 おばさまは、かきつばたを自分のこどものようにかわ いがってくれます…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 4 その中に、狩の上手な足の速い少年がいました。 少年の名前は、山彦。 「おらもかきつばたに会いたいな。いつかきつばた に会えるだろうか」 山彦も、かきつばたに会える日を、楽しみにしてい ます…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 3 「この間、霧が峰へ行ったら、女神さまのように美し い人たちに出会った。その中に、とてもかわいい少 女がいたよ」 「霧が峰へ行くと、かわいい少女に会えるそうだ。そ の少女の名前は、かきつばた…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 2 かきつばたのひとみは、いつもきらきら輝いていま した。 かきつばたをみた人は、あまりの美しさにびっくりし ました。 「なんて美しい少女だろう。この世にこんな美しい少 女がいるのだね」と。 か…

かきつばたになった少女

[童話]かきつばたになった少女 かきつばたになった少女 1 昔、昔、ずぅーと昔。 神様が私たち人間と同じ国に住んでおられた頃の お話です。 八ヶ岳のふもとの高原には、おおぜいの女神さま たちが住んでいました。 その中に、「かきつばた」という名前の、…

ふしぎな鈴

[童話]ふしぎな鈴 ふしぎなリュック 12 でも、二人の耳には、何も聞こえなかったのです。 その時、さわやかな風が、びゅーと二人の間をと おりすぎていきました。 「かなー、十年後を楽しみにねー」 どこからか小桜姫さまの声が聞こえてきました。 その声…