昭和41年頃の短歌
年老いし船頭の額に汗光り
瀬の荒くして舟足の速き
我が母に示す吾子のいたわりを
心足らいて夫と語りぬ
音たててのうぜんかつらの散り落ちぬ
一人静かに草ぬきおれば
いつくしみ育てしカナリヤをのみし蛇
とぐろまき息づかい荒らし
除夜の鐘聞きつつ小石に心こめ
般若心経書きいれてゆく
吾子の合格発表待つ二週間
望みと恐れもちてわれ過ぐ
庭の松鮮やかに映るを楽しみて
朝な朝なに廊下をみがく
庭隅の萌黄の中にさつきのみ
燃え立つ如く紅に咲く
独り居の部屋にかそけき音立てて
娘の生けし茶の実ころがりおちぬ
一日を共同炊事に立ち働きて
ほてる足裏床に伸ばしおり
我がバスのあぐる砂埃は谷越えて
落葉松林にすいこまれゆく