作り始めの頃4


昭和41年頃の短歌


老いし船頭の額に汗光り
      瀬の荒くして舟足の速き




我が母に示す吾子のいたわりを
      心足らいて夫と語りぬ




音たててのうぜんかつらの散り落ちぬ
      一人静かに草ぬきおれば




いつくしみ育てしカナリヤをのみし蛇
      とぐろまき息づかい荒らし





除夜の鐘聞きつつ小石に心こめ
      般若心経書きいれてゆく




吾子の合格発表待つ二週間
      望みと恐れもちてわれ過ぐ




庭の松鮮やかに映るを楽しみて
      朝な朝なに廊下をみがく




庭隅の萌黄の中にさつきのみ
      燃え立つ如く紅に咲く




独り居の部屋にかそけき音立てて
   娘の生けし茶の実ころがりおちぬ




一日を共同炊事に立ち働きて 
      ほてる足裏床に伸ばしおり




我がバスのあぐる砂埃は谷越えて
      落葉松林にすいこまれゆく