昭和41年−42年頃の短歌
里に来て昔のままなる飯台の
吾が座にすわり老母と茶をのむ
日本シリーズに優勝せしを喜びて
巨人びいきの夫は祝杯をあげる
天ぷらを九十人分揚げ終えて
外の空気を深々とすう
うす暗き一茶住みしとう土蔵の中に
我等しばし息つめて立つ
苦土石灰まきて野菜を作らんと
連作さけつつ小さく区切る
小春日の障子に映る松の枝に
わたる小鳥の幾群れかあり
初雪に戸惑いしすずめの群れの
朝なく雛の餌を啄ばみにくる
吾娘の弾く「雪の降る町に」にあわせつつ
声はりあげて我も歌いぬ
山の上にかく開けたる美ヶ原に
色とりどりの花乱れさく
はり替えし部屋の襖は梅雨の日の
部屋にひときわ鮮やかに見ゆ
セーターの仕上げアイロンかけつづく
熱きにほひの部屋に漂う