作り始めの頃 5


昭和41年−42年頃の短歌


里に来て昔のままなる飯台の
    吾が座にすわり老母と茶をのむ




日本シリーズに優勝せしを喜びて
    巨人びいきの夫は祝杯をあげる




天ぷらを九十人分揚げ終えて
    外の空気を深々とすう




うす暗き一茶住みしとう土蔵の中に
    我等しばし息つめて立つ




苦土石灰まきて野菜を作らんと
    連作さけつつ小さく区切る





小春日の障子に映る松の枝に
    わたる小鳥の幾群れかあり




初雪に戸惑いしすずめの群れの
    朝なく雛の餌を啄ばみにくる




吾娘の弾く「雪の降る町に」にあわせつつ
    声はりあげて我も歌いぬ




山の上にかく開けたる美ヶ原に
    色とりどりの花乱れさく




はり替えし部屋の襖は梅雨の日の
    部屋にひときわ鮮やかに見ゆ




セーターの仕上げアイロンかけつづく
    熱きにほひの部屋に漂う