昭和50年代の歌5


非常用に三ヶ月はもつといふ
    塩入れし水ナイロン袋に入れぬ




秋晴れの縁に座りて一時帰国の
    三才の幼を初めていだきぬ




ペルーより一時帰国の三才の孫の
    スペイン語に戸惑ひてをり




あさり貝の鍋に浮きてるあく掬いつつ
    決めねばならぬこと又思ひをり




紅葉せる山に囲まれダムサイド
    岩肌白く浮き立ちて見ゆ




あさり貝の鍋に浮きくるあく掬ひいて
    一つの思ひほぐれゆきぬ




急に逝きし友の夫をともらふ庭に
    とり残されし葡萄揺れをり




娘の新築の家に目覚めて裏山に
    鳴く鳥の声ききて吾がをり




遅蒔きの蔓あげの胡瓜生き残れる
    一匹の鈴虫に夕べ与へぬ




亡き母にもらひし桐の下駄そのままに
    はくこともなく下駄箱にあり




亡き夫の株をふやせし万年青いけ
    今年の正月の床に飾りぬ