火とぼし山


   火とぼし山24


「おや? むこうから歩いてくるのは、
あの娘だ。
名前は、なんていったかのぅ。そうそ
う、きよとかいっとったな。
湖の氷の上で会ってから、ずいぶんた
つのぅ。何日ぶりじゃろ。



あの夜は、あの娘、とても幸せそうな
顔をしていたのに、今日はなんだか元
気がないのぅ。どうしたのじゃろ。
青年とけんかでもしたのかな」
明神さまは、奥さんの所から、上諏訪
のやしきへもどる所でした。



「まあ、どんなに仲がよくても、たま
にはけんかもするさ。
このわしだって、妻とけんかをする。
わしが、このように妻のやしきへ通う
ようになった原因だって、ほんのささ
いなけんかだったものな」
明神さまは、奥さんとけんかした日の
ことを思いだしました。


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪湖
には、「火とぼし山」という悲しい伝
説があります。


「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。