赤い夕顔の花


   赤い夕顔の花31


「おい。今、すれちがった百姓の
一家、奥がたと若君ではないか」
「まさか。奥がたが、あんなうす
汚い野良着をきているはずがない」
「いや、わからんぞ。変装して、
城をぬけだしたのかもしれん」
すれちがった兵士たちの声が聞こ
えました。



「みつかってしまったかしら」
お万が、心配していいました。
「だいじょうぶです、奥がたさま。
奥がたさまが、着古した野良着を
着ているなんて、誰も思いません
から。さあ、先を急ぎましょう」
お万たちは、下条の兵士たちにみ
つからないように、足早に歩いて
行きました。


             つづく



「赤い夕顔の花」は、信州の南端
にあった「権現城」に伝わってい
る話をヒントにして、みほようこ
書いた物語。