赤い夕顔の花


   赤い夕顔の花32


「何、今、百姓の一家が通ったと。
それは、奥がたと若君じゃ。すぐ
後を追え」
遠くで、兵士のどなる声が聞こえ
ました。
「奥がたさま。追手につかまらな
いように、早く逃げましょう」
家臣が、お万をせかしました。



「奥がたさま。だいじょうぶですか」
「だいじょうぶよ。追手が近くに
せまってきたら、私にかまわず逃
げてくださいね」
「何をいいます、奥がたさま。
わしが、最後まで二人をお守りい
たします。どうか安心してください」
家臣がいいました。



ところが、下条の追手から逃げま
わっているうちに、お万たちは家
臣とはぐれてしまいました。


            つづく



「赤い夕顔の花」は、信州の南端
にあった「権現城」に伝わってい
る話をヒントにして、みほようこ
書いた物語。