火とぼし山82
「そうじゃ。きよは、自分の名前
も、大好きだった次郎のことも、何
もおぼえていない。
記憶がなくなってしまったきよを、
ここへおいておくわけにもいくまい。
きよが生きていることを知ったら、
次郎が何をするかわからないしな」
明神さまがいいました。
「やはり、きよは何もおぼえてい
ないのですね。
自分の名前も、大好きだった次郎
のことも、みんな忘れてしまった
なんて。かわいそうに」
手長は、きよの気持を思うとやり
きれません。
「手長、足長。そういうわけなの
で、きよが眠っている間に、静岡
までつれていってほしい」
「はい、わかりました」
手長と足長は、ぐっすり眠ってい
るきよを、静岡までつれていきま
した。
つづく
昨日の分は、こちら。
http://d.hatena.ne.jp/youko510/20100530#p1
初めて読んでくださったかたへ
http://d.hatena.ne.jp/youko510/20100309#p1
信州の諏訪湖には、「火とぼし山」
という悲しい伝説があります。
「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。