昭和50年代の歌4

五月の日に一升瓶に仕込みたる
     松葉の酒がふつふつと沸く




大工等の残して行きし天棒を
     伸びしテッセンの新芽の支へに




一冬の松葉を拾ひ水替へし
     苔むす石鉢雲を映せり




春野菜蒔くと出できし裏庭に
     夫の好みし五加萌えをり




朴の葉の散りしく遊歩道に足とめて
     梢に匂ふ花仰ぎ見る




隣屋の古き桃畑切り払われて
     南原の丘に人動く見ゆ




三つ葉摘む夕暮れの庭にライラック
     花房ゆれてしるく匂ひぬ




巣作りの材料をくはへて電線に
     並ぶ雀に春日あまねし




沢に生ふるアカシヤの花トンネルを
     ぬけし電車の窓に匂ひぬ




二年間体を擦り片へりの
     カメノコタワシを日光消毒する




落葉焚きし匂ひの残る裏庭に
     夕べこほろぎの鳴く声聞こゆ




複雑に入江と島と岬とが
     入りくむ志摩の海を船で巡りぬ