五月の日に一升瓶に仕込みたる
松葉の酒がふつふつと沸く
大工等の残して行きし天棒を
伸びしテッセンの新芽の支へに
一冬の松葉を拾ひ水替へし
苔むす石鉢雲を映せり
春野菜蒔くと出できし裏庭に
夫の好みし五加萌えをり
朴の葉の散りしく遊歩道に足とめて
梢に匂ふ花仰ぎ見る
隣屋の古き桃畑切り払われて
南原の丘に人動く見ゆ
巣作りの材料をくはへて電線に
並ぶ雀に春日あまねし
沢に生ふるアカシヤの花トンネルを
ぬけし電車の窓に匂ひぬ
二年間体を擦り片へりの
カメノコタワシを日光消毒する
落葉焚きし匂ひの残る裏庭に
夕べこほろぎの鳴く声聞こゆ
複雑に入江と島と岬とが
入りくむ志摩の海を船で巡りぬ