昭和50年代の歌12


下絵なしで唐草模様をひたすらに彫る
    沈金師の手元息つめて見る



霜枯れて桑の畑に電柱の
    落とす影長く冬に入るなり



落ち柿のすゆる臭ひも親しみて
    秋づく日射しにほうれん草を蒔く



大根の白く乾ける門先にて
    乙女椿の返り花咲く



八つ手の花白く散りしく裏庭に
    霜蕨の花茎立ちて来にけり



木の梢に残りてありし富有柿も
    へたのみとなり小鳥来遊ぶ



カマキリの卵のつきしベペロシアの
    鉢を夜ごとにとり入れて囲ふ



お日待ちの朝より炊きし一表の飯
    千個のむすびに握り終へたり