竜神になった三郎


   竜神になった三郎 3


ななかまどの実が橙色になった、秋のある日。
三郎は、遠くの町へ用たしにでかけました。
その町には、大きな美しい湖、諏訪湖があり
ます。
三郎は、久しぶりに諏訪湖によってみました。
魚でもとっているのでしょうか。
湖には、小さな舟がいくつかういていました。
「なんてきれいだろう」
秋の日をあび、湖はきらっきらっと輝いてい
ます。



三郎がぼんやり湖をながめていると、
「何をみていらっしゃるの」
後ろでかわいい声がしました。
三郎が後ろをふりむくと、はっとするほど美し
い娘が立っていました。
真っ黒な長いかみ、色白な顔、赤いくちびる、
澄んだひとみ、すらりとした体。
娘は、桃色の着物をきていました。
諏訪湖の精のような美しい娘でした。



三郎は、今までこんな美しい娘をみたことがあ
りません。
「なんて美しい人だろう。こんな人を妻にでき
たら、どんなに良いだろう」
三郎は、心の中でそっとつぶやきました。
一方、娘の方も「なんてりりしいかたかしら。
こんな人の妻になれたら、どんなにうれしいこ
とか」と、思ったのです。
ひとめみた時から、二人とも忘れられなくなって
しまったのです。



「家はどこ?」
「この近くなの。ほら、あそこにみえる家よ」
「兄弟は何人?」
「私、一人っ子なの。
おじいさんと暮らしていたけれど、おじいさんも
この春なくなってしまったわ。
だから今は一人っきり」
村の娘とちがい、娘のことばは上品でした。
二人とも、初めて会ったのに、いつかどこかで会
ったことがあるような、
とてもなつかしい気がしました。
「一週間後、もう一度ここで会おう」
そう約束して、二人は別れました。


       つづく



童話「竜神になった三郎」は、みほようこの二冊
目の童話集・「竜神になった三郎」に収録されて
います。



竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)