明神さまの姿をみた少女


明神さまの姿をみた少女3


すると、どこからか赤いちょうが、一匹舞って
きました。
松虫草の花の上で、赤いちょうが羽を大きくひ
ろげた時、少女は余りの美しさに「あっ」と声
をあげました。



ちょうの羽には、大きな目玉のようにみえるも
ようがついていたのです。
なんとも不思議なもようでした。
少女が赤いちょうにみとれていると、あっちの
方から一匹、こっちの方から一匹と、沢山のちょ
うが、松虫草の花のまわりに集まってきました。



そして、沢山のちょうは、大きなまーるい円を
えがきながら、ひらひら舞いはじめました。
ちょうの数は何百匹、いや何千匹でしょうか。
初めてみる美しいちょうの舞でした。
誰がふいているのでしょうか。
どこからか笛の音が聞こえてきました。
ちょうたちは、その笛の音にあわせて、ひらひら
と楽しそうに舞っています。



「この赤いちょうは、高原に住んでいるというく
じゃくちょうではないだろうか」
少女は赤いちょうの舞をみているうちに、幼い時
おじいさんから聞いた不思議な話を思い出しました。
「あの山のむこうにはなー、広い高原があるのだよ。
そして、その高原には、昔から大勢の女神さまたち
が住んでおられるそうだよ。
秋になるとな、女神さまたちが赤いきれいなちょう
になって、広い高原を楽しそうに舞うそうだよ。
とても美しい舞だそうだ」と。



少女が後をふりむくと、いつきたのでしょうか。
かわいい小鹿が、少女の後にちょこんと立っていまし
た。小鹿の耳は、たてにふたつにわれていました。


                  つづく


童話「明神さまの姿をみた少女」は、みほようこ
の初めての童話集・「風の神様からのおくりもの」
に収録されています。



風の神様からのおくりもの―諏訪の童話

風の神様からのおくりもの―諏訪の童話