愛犬りゅう「ばいばい、またね」


  愛犬りゅう「ばいばい、またね」5


ぼくには一つだけ悪いくせがあった。あーちゃん
がごはんを運んできて前におくと、ぼくは食器の
中へすばやく手を入れてしまうのだ。
なぜ手を入れるようになったかというと、ぼくに
は弟と妹がいて、早くごはんを食べないと、ごは
んがなくなってしまった。
だから、ぼくはごはんが運ばれてくると、「これ
は、ぼくのごはんだ。手をだすな」って、弟や妹
にいっていたのだ。




今は誰もごはんをとる人はいないのに、習慣って
こわいね。
ごはんのたびに、ぼくはあーちゃんにしかられた。
「りゅう、食器に手を入れてはだめよ」
「これはりゅうのごはんだよ。誰もとらないから、
安心しておたべ」と。
あーちゃんはそういったけれど、ぼくは安心でき
なかった。まさか、あーちゃんがぼくのごはんを
食べてしまうとは思わなかったけれど・・・。




二週間ぐらいして、ぼくの悪いくせもなおったみ
たいだ。
でも、あーちゃんがぼくの食器に手を入れると、
弟や妹にごはんを食べられた時のことを思い出し、
つい「うー」といいたくなる。
ぼくが「うー」というと、あーちゃんにしかられる。
ぼくは「うー」というかわりに、鼻にしわをよせる
ようになった。




すると、「そんなこわい顔をしてはだめよ」と、あ
ーちゃんはいう。
ぼくの悪いくせがなおったかどうか、あーちゃんは
時々食器の中へ手を入れてぼくを試す。
「なんでそんなことをして、ぼくをためすのだ。変
なあーちゃん」
ぼくは心の中でそっとつぶやいた。




ぼくはおしっこやうんこがでたくなると、「くぅーん、
くぅーん」とないて、あーちゃんにしらせる。
すると、あーちゃんはあわてて二階から飛び降りてく
る。そして、ぼくをトイレにつれていってくれる。
ところが、一週間位したら、「くぅーん、くぅーん」
とないても、あーちゃんはとんできてくれなかった。




「おしっこがでちゃうよぉ。あーちゃん、早くきてぇ」
ぼくは何度もないてうったえた。
でも、あーちゃんはきてくれなかった。
その時、「だだーん」という大きな音がした。


   つづく