愛犬りゅう「ばいばい、またね」


   愛犬りゅう「ばいばい、またね」22


ぼくは、その声を聞いて、「ぎょっ」とした。
なんと・・・ボールと一緒に、ボールを持って
いたあーちゃんの指をかんでしまったのだ。
右手の親指と中指だ。



ぼくは、あーちゃんの指など、かむつもりはぜ
んぜんなかった。
ボールをとろうとしたら、たまたまそこにあー
ちゃんの指があったのだ。
「ちょっと、りゅう、何をするの!!」
「ぼく、ボールをとろうとしただけだよ」



「ねえ、りゅう。良い子だから、口をはなして・・・。
痛いわ・・・。りゅうは今私の指にかみついてい
るのよ。わかる?」
そういわれても、最初はあーちゃんの指にかみつ
いているという感覚は、ぼくにはぜんぜんなかった。
「ボールをはなせば、またボールをとられてしまう」
そんな気持の方が強かった。
・・・というのはうそで、あーちゃんの悲鳴を聞い
たら、びっくりして口が硬直してしまったのだ。



「りゅう、ボールをはなしなさい!!」
あーちゃんが何度もさけんだ。
何度いっても、ぼくがボールをはなさないので、おも
いあまったあーちゃんは、左手でぼくの耳を強くひっ
ぱった。
「痛い!!」
「りゅう、私もそれ位痛いの。だからボールをはなし
て・・・」



それでも、ぼくがボールをはなさないので、今度はし
っぽがちぎれてしまうのではないかと思う位、ぼくの
しっぽを強くひっぱった。
あーちゃんにしてみれば、ひっしだったのだろう。
そうこうしているうちに、あーちゃんの指から血がふ
きだした。



「りゅう、血がでてきたよ。早くボールをはなしなさ
い!!」
痛みにたえかねたあーちゃんが、かなきり声をだして
いる。
「なんとかしなくちゃあ・・・」
ぼくはあせった。
でも・・・、指をはなしてあげたいのだが、口が動か
ないのだ。
「あーちゃん、ごめんね。ぼく指にかみつくつもりな
んかなかったのだよ」
ぼくは心の中で、何度もあーちゃんにあやまった。


      つづく