白駒の池


      白駒の池28


しかし、その湖は、八ヶ岳山麓の原生林の中にある
ということしかわかりません。
清太は、長者が道に迷ったという麦草峠の近くの森
にむかって、歩いていきました。
いつもは白駒の背に乗っていくので、麦草峠といっ
ても、すぐ着きます。でも、今日は自分の足で歩い
ていかなくてはなりません。
清太は、麦草峠にむかってとぼとぼと歩いていきま
した。



その日の夕方。
「とうちゃん。清太さんがまだ帰ってこないの。清
太さんは、どこへ行ったの?」
「清太は、用事で遠くの村へ行った。用事がすめば、
清太は帰ってくる。心配しなくてもだいじょうぶだよ」
長者は、苦しまぎれにいいました。



しかし、一週間たっても、二週間たっても、清太は帰
ってきませんでした。
「ねえ、とうちゃん。清太さんは、もうこの家にもど
ってこないのではないの。ほんとうのことをいって」
「きよ。とうちゃんを許しておくれ。清太は、もうこ
の家にはもどってこない。清太には、この家をでてい
ってもらった」
「とうちゃん。清太さんが、何かしたの?」


      つづく