かきつばたになった少女


童話「かきつばたになった少女」より


その日の夕方。
かきつばたから、きすげの花をもらっ
たおばさまは、とてもうれしそうでした。
「かきつばた、ありがとう。きすげの
花をみることができて、うれしかった。
もうなにもおもいのこすことはないわ」



「おばさま、今日ね、霧ケ峰で山彦とい
う少年に会ったわ」
「えっ、山彦に?」
おばさまは、驚いたような顔をしました。



「おばさまは、山彦さんのことを知って
いるの?」
「ええ、よく知っていますよ。だって、
山彦は私が大好きだった人のこどもで
すもの」
「えっ?」



「少女のころ、私は霧ケ峰で人間の少年
に会ったの。そして、その少年と何度
か会ううちに、おたがいに好きになっ
たわ。 でも・・・今もそうだけれど、
人間の男性と女神は、結婚することは
許されていなかったの。



だから、私はその人と結婚することを
あきらめたわ。でも・・・私はその人
のことをどうしても忘れることができ
なかった。だから、だれとも結婚しな
かったの。



その人は、その後おさななじみの人
と結婚したわ。
そして、生まれたのが山彦。だから、
山彦のことは、ずっと気になっていたわ」
「そうだったのね。私何も知らなかった」




   かきつばたになった少女


http://www.geocities.jp/dowakan/raionkakitubata1.html




信州の霧ケ峰高原には、「かきつばた」
という伝説があります。



童話「かきつばたになった少女」は、
「かきつばた」の伝説をヒントにして
みほようこが書いた物語。



童話「かきつばたになった少女」は、
みほようこの四冊目の童話集「ライオン
めざめる」に収録されています。