火とぼし山


火とぼし山19


「私は、次郎さんの笑顔をみるだけで
幸せ」
きよは、心の中でそっとつぶやきました。
「はい、次郎さん。いつものお酒よ」
「きよちゃん。このとっくり、どうし
たの? すごく熱いよ」
「私、いつものように、手で温めてき
ただけよ」



きよはそういったけれど、手で温めて
きただけで、とっくりがこんなに熱く
なるものだろうかと、次郎は疑問に思
いました。



「きよちゃんの手は、温かいんだね。
ちょっとさわっていい?」
「どうぞ」
きよは、手をさしだしました。
その手は、驚くほど熱い手でした。
「きよちゃん。熱があるんじゃない? 
だいじょうぶ」
次郎が心配して聞きました。



「熱なんてないわ。次郎さん、心配し
ないで。私の手は、いつも熱いの。
さあ、次郎さん。冷めないうちにお酒
を飲んで」
きよは、酒をすすめました。


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪湖
には、「火とぼし山」という悲しい伝
説があります。


「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。