開善寺の早梅の精


   開善寺の早梅の精6


文次は、即興で歌をよみました。



  ひびきゆく鐘の声さへ匂ふらん


   梅咲く寺の入り相の鐘



「この寺では、鐘の音までも、梅
の香りに満ちている」、こんな意
味の歌でした。



すると、女の人は軽く会釈をして、
歌を返してきました。



  ながむれば知らぬ昔の匂ひまで


   おもかげ残る庭の梅が枝



女の人は、「昔の美しかった花の
おもかげまで、この梅には残って
いるようです」と、よんだのでし
ょうか。


             つづく



信州の伊那谷に、「開善寺」という
寺があります。

「開善寺の早梅の精」は、開善寺に
伝わっている話をヒントにして、
みほようこが書いた物語。