昭和50年代の歌13

  おしなべて素枯るる中に株増えて
       万年青のみどり凍みに耐へをり



  七十路越ゆれば一日一日が貴しと
       従兄弟の言ふをしみじみと聞く



  庭内の裸木の雪とけ初めて
       午後の日ざしにしきりに雫す



  かへりくる言葉は少し間のあれど
       ペルーの汝の声受話器に近し



  赤彦の「家ひくくして道広し」の額
       かかげある店にて木曾土産買ひぬ



  この冬のきびしき寒さに凍み枯れて
       月桂樹の葉風に鳴りをり



  無人化となりたる駅に牛乳瓶の
       水仙の花に心和み待つ



  ようやくに春めきし日を背に受けて
       二週間おそく春野菜蒔く



  五年振りの帰国間近き汝の布団
       春めきし光の屋根に広げ干す



  末の娘の嫁入りの荷物出し終へて
       寂しけれど心安けし



  長かりし厳しき冬を思ひつつ
       池の水道の囲ひを外す