愛犬りゅう「ばいばい、またね」


  愛犬りゅう「ばいばい、またね」19


「こんなボールを飲み込んだら、死んじゃうよ」
そう捨てぜりふを残して、あーちゃんは家の中へ
入っていった。
「なんだ。一度くれたものをとりあげるなんて、
ひどいじゃないか!!」
ぼくはふてくされて、小屋の中へ入った。



「りゅう、明日学校から古いボールをもらってき
てあげるから、待っておいで」
こうちゃんが小屋をのぞきこみながら、そういった。
「こうちゃんも、あてにはならん」
ぼくはそう思った。
なんとしても、あのボールがほしい。
どうやったら、あのボールを手にいれることができ
るかな?
ぼくはひっしで考えた。
しかし、良い考えもうかばなかった。



次の日。
ひなたぼっこをしていたら、庭へボールがころころ
ところがってきた。
でも、鎖につながれているので、そのボールを拾う
ことはできない。あそこに大好きなボールがあるの
に・・・。残念。



あーちゃんの家は、中学校の校庭の下にある。
坂道になっているので、校庭でホームランを打つと、
庭へボールがとんでくる。
・・・というより、どこかへ落ちたボールが、坂道
なのでころころところがってくるのだ。



野球の部活がある日には、こどもたちが庭へボール
をさがしにくる。
あじさいの木の中や、どての草の中に入ってしまう
と、ボールはなかなかみつからない。
「ちぇっ、ボールがみつからない」
そうぼやきながら、こどもたちが帰っていく。
そんなボールが、あーちゃんの庭にはいくつもころ
がっていた。
多い時には、十個位ころがっていた。



あーちゃんの家にきてから、三ヶ月位たった頃には、
散歩のたびにぼくはボールを拾ってくるようになった。
だから、ぼくの小屋のまわりには、ボールがごろごろ
していた。
「りゅうって、ボール拾いの天才だね」
そういって、あーちゃんとこうちゃんがほめてくれた。
でも、こうちゃんはぼくが拾ってきたボールを、ぼく
にみつからないように、中学校の校庭へそっと返しに
いっていた。


   つづく