星野富弘さんのことば


新・富弘美術館の開館にあたり、「山の
向こうの美術館」という本が出版されま
した。





山の向こうの美術館

山の向こうの美術館





この本の中で、星野さんはこんな思い出
を語っている。 長文だが、ぜひ読んで
いただきたいと思い、紹介します。




ある夏のこと。
少年・富弘は、渡良瀬川を泳いで渡ろう
としたところ、流れにのみ込まれてしま
った。




必死で元の川岸に戻ろうとしたが、川は、
おそろしい速さで富弘を押し流してゆく。
溺れかけた時にフッとひらめいた。





「そうだ、何もあそこに戻らなくてもい
いんじゃないか」





富弘は方向転換し、下流に向って泳いだ。
この瞬間、恐ろしかった川がいつもの穏
やかな渡良瀬川に戻った。
浅瀬に辿り着いた時、富弘の胸いっぱいに
喜びが広がった。




この「川の流れ」は抗えない「運命」その
ものではないだろうか。流れに逆らうので
はなく、身をまかせることで真の目的に近
づくこともあるのだ。




この体験を思い出した時から、次第に富弘
の中から「闘病」という意識がうすれ、「障
害を受け入れて生きてゆく」と考えるよう
になった。



もし、この出来事がなければ、富弘は今も
苦しい「闘病生活」を送っていたかもしれ
ない。 目に見えることは何一つ変わって
いないのだから。






この文章を読んだ時、二年前横断歩道を歩
いていて、スピード違反・わきみ運転の車
にはねられた時のことを思い出した。
今も私は事故の後遺症に悩まされている。
足も痛いし、肩も痛い。




長い時間正座ができないし、左手に力が入
らないので、茶道の点前も以前のようには
できない。


長時間、車の運転ができない。


長時間しゃがむということができない。


段差のある所へはのぼれない。


左手で重いものはもてない。


知らない間に足をひきずって歩いている。




でも、杖なしで歩けるようになったのだから、
それで良しとしなくては・・・と。
二年前の私に戻ることはできないのだから。
命が助かっただけでも有難いと思わなくては。
そう思って暮らしている。