ブロック塀をたちまち緑にうめし蔦に
音たてて一日雨の降りおり
昭和七年吾ら入学の名簿の中に
二十三名もの逝きし人あり
亡き夫の手塩にかけし吊り忍
淡き緑のほぐれ萌え来ぬ
吾が子らの誕生地それぞれに異なるを
古きアルバム見つつ思へり
平凡な主婦にて終わるこの一生を
仕合せとも不甲斐なきとも今日は思ひぬ
意のままを言えば互いに傷つかむ
逢ひたる今日も黙しがちなる
在りし日に夫の座りし場に座り
雨の一日をチョッキ編みつぐ
一枝の椿を彫りし亡き夫の
手作りの俎板心こめて磨く
堪えしのぶことにも慣れて強くなり
夫亡き四年長し短し
三年間体を擦りて片減りし
カメノコタワシを捨てがたくいる
亡き夫との思い出残る神の峯の
テレビ塔よぎる雲を見ており